カテゴリ:糖尿病治療

糖尿病と再生医療:糖尿病の概要と再生医療の関わりと治療の新たな可能性について

監修医

院長 麻沼卓弥 医師

日本内科学会認定内科医、日本糖尿病学会専門医。
2012年より東京女子医科大学病院糖尿病・代謝内科助教など歴任。
2022年1月、青山レナセルクリニック院長に就任。
幹細胞再生治療を通じ、国民病で万病の元である糖尿病の根治に取り組んでいる。

現在糖尿病の治療では、進行を遅らせることはできても根本治療(インスリンを分泌するβ細胞の機能改善)は難しいものとされてきました。現在行われている根本的な治療、膵β細胞の再生医療としては、膵臓移植、膵島(β細胞)移植があります。

膵臓移植、膵島移植については1型糖尿病に限定され、また配給が限定されており、また生涯の免疫抑制剤の必要性があります。ES細胞、iPS細胞を分化させ、移植に利用する研究が行われていますが、倫理的な問題や、様々な他の課題により臨床での利用は現状現実的ではありません。

一方で体性(組織)幹細胞という幹細胞が存在することも明らかになっています。多様な細胞に分化する可能性はES細胞、iPS細胞より限定されますが、このような幹細胞を利用できれば、免疫拒絶反応をおこさずに患者本人の細胞を用いて自家移植を行える可能性もあると考えられています。

ただ糖尿病に対し臨床での再生医療を行っている病院はまだ多くなく、そのメリット・デメリットなどが一般的にはあまり知られていない一面もあります。

この記事では糖尿病に対する再生医療の概要や、その可能性について詳細に解説します。

はじめに

糖尿病は放置すると全身に様々な影響が出てしまう、深刻な病気のひとつです。日本における糖尿病患者は、予備軍も含めると約2,200万人ほどとされています。

年代にもよりますが40歳以上になると、10人に1人は糖尿病という割合になり、高血圧の次に多い病気なのです。そんな糖尿病を放っておくと、数年〜数十年後には網膜症、腎症、神経障害などの合併症が生じてしまうことがあります。

さらに重症化すると失明のリスクもあり、腎不全により透析が必要となることもあるのです。糖尿病により、癌、脳卒中、心臓疾患のような深刻な疾患のリスクも高まります。

糖尿病は私たちが生きるうえで重要な「血糖」に関係しているため、誰もに注意が必要であり、無視できない病気です。

そんな糖尿病の治療には課題もあり、その課題を解決する策として近年では再生医療も注目されています。

糖尿病の現状と課題

糖尿病は何らかの理由で、膵臓から分泌されるインスリンの量が減ったり、インスリンの働きが悪くなることで起こる病気です。インスリンがうまく働かないことにより血糖値が上昇してしまい、その結果様々な合併症にもつながっていきます。

糖尿病は一度発症してしまうと、完治しない病気と言われることがあります。これは、従来の糖尿病治療では根本治療(膵β細胞機能の改善)が難しいためです。

従来の治療法では、血糖値を下げるためのインスリン投与や、食事療法、運動療法を主に行います。ただこれらは必ずしもβ細胞機能改善するものではありません。多くの場合は長期間にわたって、投薬などを続けることになります。

それに対し、再生医療によって糖尿病の根本治療ができる可能性が注目されています。

再生医療とは

糖尿病の根本的な治療にも期待がされる再生医療ですが、そもそもどのようなものでしょうか。

再生医療は京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥教授がノーベル生理学・医学賞を受賞した2012年頃から、一般的にも注目され始めたと考えられています。

その概要についても知っておきましょう。

再生医療の概要

再生医療は、簡単に言うと「体が再生しようとする力を引き出す治療法」です。

再生医療の目指すところは、病気や事故などの理由によって失われた組織を再生すること。

例えば生きた細胞や人工材料、遺伝子を入れた細胞など様々なものを使い、壊れたり失われてしまった組織を、「根本的に元通りにする」ことを目的としています。

そのため、例えば自分の体から幹細胞という特殊な細胞を取り出し、増殖してから目的の組織や臓器にするなど複雑な技術が用いられます。それによりできた組織を元の体に戻すことで、根本的な治療が期待できるというものです。

生きた細胞の他にも人工材料を取り入れたり、様々な新しい技術について日々研究が進んでいる分野です。

再生医療は、これまで根本治療が難しいとされた疾患に対しても、根本的な治療の可能性が広がる優れた医療技術のひとつと言えます。

幹細胞治療

再生医療のひとつに幹細胞治療があります。

これはダメージを受けた細胞や組織を修復したり、再生したりするために幹細胞を使用するものです。まずは幹細胞を採取し大量培養します。そして培養後の幹細胞を血液中に投与したり、患部組織に直接移植するなどして治療が行われます。

1. 幹細胞の種類

幹細胞は私たちの細胞の中でも、消えた細胞を自ら再生し補充する機能をもった細胞のことです。

幹細胞は大きく2種類に分けられます。

  • 体性(組織)幹細胞
  • 多能性幹細胞

体性(組織)幹細胞とは皮膚や血液のような組織で、消えた細胞の代わりを造り続けてくれる幹細胞です。組織幹細胞は何でも作り出せるわけではなく、決まった組織で特定の役割をもっています。

例えば血をつくる「造血幹細胞」であれば、血液系の細胞、神経系を造ります。「神経幹細胞」であれば神経系の細胞を造る、というようにそれぞれ役割の決まった組織幹細胞が存在します。

対して「多能性幹細胞」は、私達の体内の細胞であれば、どのような細胞でも作り出すことができる機能をもっています。そのため多能性幹細胞は、体内の様々な組織幹細胞をも造り出すことができるのです。

ちなみにノーベル生理学・医学賞受賞で名前を知られているiPS細胞とは、普通の細胞をもとにして人工的に造られた多能性幹細胞のことです。

 2. 幹細胞治療の仕組み

一般的に行われている幹細胞治療では、身体の脂肪・骨髄・臍帯などから幹細胞を抽出して培養します。

そして症状のある部位へ、培養した幹細胞を注入したり、点滴によって血管から全身に投与します。これにより新しい細胞が増えて、衰えていた機能を回復させる効果が期待できるのです。

遺伝子療法

再生医療とは別ですが同じく糖尿病の根本治療を期待できるものとして、「遺伝子療法」もあります。

遺伝子療法が糖尿病治療にどう関わってくるのかも、知っておきましょう。

1. 遺伝子治療の原理

遺伝子治療とは簡単に言うと「遺伝子を編集する技術」を用いた治療法です。

その言葉通り患者の遺伝子を編集して、細胞の遺伝子発現を強めたり、細胞に新たな機能をもたせたりすることが可能です。遺伝子疾患を根本的に治癒できる可能性のある医療技術として、研究が進んでいます。

近年では遺伝子解析のコストも下がっており、遺伝子に起因する疾患のメカニズム解析が行われやすくなり、新しい治療法の開発にも寄与しています。

2. 糖尿病治療への適用

糖尿病の発症は、遺伝子や環境要因に大きく関わっています。

糖尿病の治療としての遺伝子治療についても多くの研究がされており、論文も発表されています。マウスを用いた研究では、糖尿病治療に有効と考えられる遺伝子を投与することで、糖尿病症状の発症を抑制することなどもわかり始めています。

まだ研究段階のことも多い治療法ではありますが、今後糖尿病の根本治療に大きな貢献をする可能性が注目されています。

参考文献:糖尿病の遺伝子治療

糖尿病とは

糖尿病とは、膵臓から分泌されるインスリンの量が少なくなってしまうことや、インスリンの働きが悪くなることで血糖値が上昇する病気です。

簡単に言うと、体内の血糖値コントロールが正常に行われず、血糖値が高くなってしまう状態が糖尿病となります。

私達が食事で炭水化物を摂ると、多くはブドウ糖になり血液中に入ります。そして血糖値が上がる仕組みです。その際に健康な方の場合は「インスリン」というホルモンにより、血糖値を下げる働きが起こり、血糖値を一定に保とうとします。

しかし糖尿病の方はインスリンが十分に作用していないため、ブドウ糖を有効に使うことができず血糖値が上がったままになってしまうのです。この状態が糖尿病とされています。

そんな糖尿病にはいくつかの種類があり、それぞれに原因が異なります。

糖尿病の種類

糖尿病には、代表的な2つの種類があります。それが、「1型糖尿病」と「2型糖尿病」です。

1型糖尿病

1型糖尿病はインスリンを作る膵臓の細胞が壊れることから起こるものです。原因は明確になっていませんが、膵臓のインスリンを分泌しているβ細胞が破壊されることで、インスリンが正常に働かなくなってしまいます。

約9割は自己免疫性で、自己の免疫が膵臓を攻撃して起こっています。残り1割は特発性で原因不明とされています。

進行のスピードは人により異なりますが、進行するとインスリンがほとんど出なくなるため、インスリン投与が必要となるのです。

2型糖尿病

2型糖尿病は、遺伝的な要因に加え、過食や運動不足のような生活習慣が要因となり、インスリンの分泌が減ったり、インスリンの効きにくさから起こります。中年以降が多いですが、最近は若年層の発症も増えています。

生活習慣も大きな要因であることから、「生活習慣病」と呼ばれるのがこの2型糖尿病です。運動不足、アンバランスな食生活、ストレス、睡眠不足、喫煙や飲酒などの生活習慣の乱れが、絡み合って発病すると考えられています。

2型糖尿病では経口血糖降下薬やインスリン投与などのほか、運動療法や食事療法も重視されます。

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糖尿病の症状と合併症

糖尿病では、インスリンの働きの低下による血糖値の上昇だけでなく、それによって起こる様々な合併症があります。

糖尿病の症状は、軽度では自覚症状がなく気づかれないこともあります。しかし進行すると以下のような深刻な症状が表れます。

高血糖の影響

糖尿病で高血糖になることでは、まず喉が乾いたり疲れやすくなるなどの症状が見られるようになります。

【尿の量が増える(多尿)】
糖は尿として水分と一緒に排泄されるので、血糖が増えることで尿が多くなります。

【のどの乾きからくる、水分摂取量の増加(口渇、多飲)】
多尿で水分が出て行ってしまうため、多く欲するようになります。

【体重が減る】
糖を尿として多く排出するので、体内タンパク質や脂肪をエネルギーとして使用するようになるためです。

【疲れやすくなる】
エネルギーが消費され不足するのと、それに伴う体重減少で疲れを感じやすくなります。

【傷の治癒が遅い】
高血糖では組織の損傷回復が遅れるため、傷が治りにくくなることもあります。

【足の痺れや痛み】
高血糖により神経の損傷が起こり、足の痺れや痛みが出るケースもあります。

2. 腎疾患との関連

糖尿病では合併症として、「糖尿病性腎症」のような腎疾患が起こることもあります。

糖尿病性腎症とは、正常に尿の老廃物を排泄できなくなる病気です。これは腎臓の糸球体が傷つく事が原因で、正常に老廃物を排泄できなくなった結果、尿の中に糖が流れていきます。

症状が進行すると人工透析が必要となる、深刻な合併症です。2021年での透析導入の原疾患としては糖尿病39.6 %と1位になっています。

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3. 眼の合併症

糖尿病の合併症には眼に関するものもあります。

「糖尿病性網膜症」という合併症を発症が進行すると、失明のおそれもあります。糖尿病性網膜症とは網膜の血管損傷により出血などが生じ、徐々に視力が低下していく病気です。

糖尿病性網膜症は失明の原因の第2位とされており、早期の眼底検査が重要と考えられています。

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糖尿病に対する現在の治療法

糖尿病の現在の一般的な治療では、以下のようなものがあります。

1. 薬物療法

糖尿病の薬物療法では、薬によって血糖値をコントロールし血糖値が高い状態を改善します。主にインスリン注射と経口薬の2つに分かれます。

経口薬では膵臓のインスリン分泌を促進する薬や、体内に蓄えていた栄養を血糖の形で放出することを抑える薬、小腸での糖の吸収を緩やかにして血糖値の急上昇を防ぐ薬、余分な血糖を尿中に排泄する薬、インスリン抵抗性を改善する薬などがあります。

2. インスリン療法

インスリンは本来膵臓から分泌され血糖値を下げる役割がありますが、糖尿病患者においてインスリン分泌能が下がっている場合、外部からのインスリン投与が必要な場合もあります。

インスリン注射では自然なインスリンの分泌と違い、血糖のコントロールができず低血糖になるリスクもあるのが懸念点であり、低血糖の予防や対策が必要です。

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3. 生活習慣の管理

糖尿病の治療では生活習慣の改善指導も行われます。

基本的には糖尿病は生活習慣も要因のひとつであるため、ほとんどのケースでまずは生活習慣の改善が重要とされます。

運動療法、食事療法の両方を用いて、さらに睡眠やストレスのケアも行っていくことが大切となります。

幹細胞治療による糖尿病治療

糖尿病に対する再生医療のアプローチは、主に以下の2つの側面に焦点を当てています。

  1. 膵臓の再生: 1型糖尿病の場合、患者の免疫系が自身の膵臓のインスリン産生細胞(β細胞)を攻撃し、インスリンの分泌が不足しているため、外部からのインスリン補給が必要です。再生医療の一部として、糖尿病患者向けに新しいβ細胞を生産する試みが行われています。これは、幹細胞からβ細胞を生成し、移植することで、自己免疫攻撃に対する保護措置を講じつつ、インスリンの補充を可能にしようとするものです。
  2. 血管や神経の再生: 糖尿病は血管や神経に損傷を与えることがあり、これが合併症の原因となります。再生医療は、糖尿病患者の血管や神経組織の再生を促進するためのアプローチを模索しています。これには幹細胞療法や細胞治療が含まれ、患者の体内で損傷した組織を修復し、機能を回復させることを目指します。

ただし、これらのアプローチはまだ実験段階や初期の臨床試験段階にあり、一般的な臨床治療として広く利用されているわけではありません。

現在自由診療で行える糖尿病の幹細胞治療は例えば、脂肪由来幹細胞を培養し投与する方法があります。これにより、膵臓や血管を再生及び修復します。結果、膵臓の働きを改善し、本来もっている「血糖をコントロールする力」が機能するようになるのです。

1. 幹細胞から生成されたインスリン

糖尿病の幹細胞治療では、ES細胞やiPS細胞のような幹細胞からインスリン自体を生成する、ということも行われます。

インスリンは本来膵臓のβ細胞から分泌されるホルモンですが、糖尿病ではβ細胞の機能不全などがあり正常に分泌されません。そこでβ細胞をES細胞やiPS細胞などから試験管内で作成し、移植するという方法があります。

そのβ細胞がインスリンを造り出してくれるのです。

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2. 幹細胞移植の成功事例

糖尿病に関するヒトへの脂肪由来幹細胞移植の報告、研究は多くありません。それは保険診療ではないことや、幹細胞治療を行う病院自体がかなり少ないことも関係しています。また、培養した幹細胞をインスリン産生細胞に分化させる技術的なハードルや、投与した幹細胞がインスリン産生細胞投にどの程度分化するのか、投与経路の選択の問題があります。しかし、体性幹細胞の投与によりインスリン産生細胞への分化、免疫調整作用に伴うインスリン抵抗性の改善や、血糖を一定に保つ機能、インスリン産生細胞死の抑制などの血糖値改善効果の可能性はあります。

基本的には厚生労働省により、糖尿病の脂肪由来幹細胞治療の許可を受けた医療機関によって実施されています。しかし、糖尿病の再生医療で劇的に血糖値が下がったという報告もあり、今後の発展が期待されます。脂肪由来幹細胞の有効性と最適な治療方法を確認するための大規模かつ対照的な研究が期待されます。

糖尿病と再生医療の重要性のまとめ

現在保険診療で行われる糖尿病の治療は、薬物療法、運動療法、食事療法があります。糖尿病は現在の医学的知識と技術では完全に根治することは難しい疾患の一つです。糖尿病は慢性的な状態であり、基本的に一度発症すると、一生涯にわたって管理と治療が必要です。ただし、適切な治療とライフスタイルの変更によって、症状の管理と合併症のリスクを大幅に軽減できます。しかしどれも根本的な治療にはつながりにくく、長期的な投薬が必要となってしまう面もあります。

そんな中、糖尿病の根本治療の可能性を高める医療技術として、再生医療は大いに注目されています。

まだ実施できる医療機関が少なかったり、保険適用にならないなど未開の部分も多い糖尿病の再生医療。しかし今後の発展によっては糖尿病治療を劇的に変えてくれる可能性もあるのです。

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