幹細胞治療 背景
徹底解説(2026年最新版)

幹細胞(MSC)の真実

再生医療に使用されている「間葉系幹細胞(MSC)」の実態と正確な評価について、
発見当時から現在に至るまでの国際的な研究の歴史を踏まえて、徹底解説します。

「幹細胞治療」に関する国際的ガイドラインについて

「幹細胞治療」に関する
国際的ガイドラインについて

当院はじめ日本のクリニックが厚生労働省に届出ている提供計画は、全て「間葉系幹細胞を用いた治療」というタイトルで受理されています。また、世間一般においても「幹細胞」「幹細胞治療」という用語が広く浸透しています。
そして、この「幹細胞治療」の作用について、大半のクリニックは、「静脈内に投与された幹細胞が血流に乗って炎症組織に自然に集まる“ホーミング効果”を発揮して、目的組織の細胞に“分化”することで傷ついた組織を修復・再生する」などと説明しています。
ところが、これらは国際的には完全に否定されている数十年前の構図であり、明らかに虚偽または誇張です。

近年、国内外の権威性が高い学会やアカデミアにおいては、再生医療に使用される
“間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell/略称MSC)”という呼称は生体内での実態に即していないため、
“間葉系間質細胞(Mesenchymal Stromal Cell/略称MSC)”と呼称すべきである、という確固たるコンセンサスが形成されています。
また、この背景として、「幹細胞」という用語が連想させる「分化による組織再生」という誤解を正し、過剰な医療広告に対する警鐘も明記されています。

間葉系幹細胞
間葉系間質細胞

つまり、現在の日本の実情と国際的なコンセンサスの間には大きなギャップがあり、治療に使用する細胞の呼称について“捻じれ現象”が生じているのです。

そこで、本ページでは、「幹細胞」の概念や「幹細胞治療」の作用機序に関する“正確な情報(真実)”を、科学的エビデンスに基づき時系列で解説します。
なお、

  • Mesenchymal Stem Cell
    /略称MSC(間葉系幹細胞)
  • Mesenchymal Stromal Cell
    /略称MSC(間葉系間質細胞)

この2つの名称に共通する「MSC」という略称は、両方の意味合いを含む形で使用されることが多く、近年の論文では、「Mesenchymal Stromal/Stem Cell(MSC)」と併記されることも多く、MSCという略語自体は、幹細胞性と間質細胞性の両方を含んだ中立的な用語として扱われています。
従って、本ページにおいても、この2つの用語を厳密に書き分けることは困難かつ現実的ではない箇所については、国際的なスタンダードに従い、両者共通の略称である「MSC」と表記します。

目次

幹細胞とは?

人間の体を構成する
細胞の種類(体細胞と幹細胞)

人間の体は約37兆個の細胞で構成されていますが、その原点は、たった一つの受精卵です。
受精卵は、胚性幹細胞から内胚葉系・中胚葉系・外肺葉系の幹細胞を経て分裂を繰り返し、最終的に、皮膚、血液、心臓、脳、骨など胎児のあらゆる組織や臓器に変化していきます。
このように、細胞が分裂し、多様な組織や臓器の細胞に変化することを「分化」と言います。
受精卵が分化を繰り返した結果として私たちの体内に存在する細胞は、「体細胞」と「幹細胞」に大別されます。

幹細胞とは?
幹細胞とは?

このうち、「体細胞」とは、血液や臓器、脂肪、筋肉など体内のあらゆる組織を構成する個々の細胞で、日々の約2000億個もの入れ替わりと併せ、怪我や病気、老化などによっても損なわれていきます。
これらの細胞は、皮膚なら皮膚、血液なら血液、と特定の細胞にしか分化できず、一定の寿命があるため、いずれ死滅します。
これに対し、「幹細胞」とは、様々な体細胞に分化することができる、未分化の細胞のことで、絶えず入れ替わり続ける皮膚や血液のように寿命が短い細胞を活性化させ、病気や事故などによりダメージを受けた際に失われた細胞に置き換わることで補充する能力を有しています。
このように、皮膚なら皮膚、血液なら血液と予め決められた細胞にしか分裂できない体細胞と異なり、決まった役割を持たず、損傷した細胞の修復を通じて組織再生を担う希少な細胞が幹細胞なのです。 つまり、幹細胞とは、一言で表現すると“細胞を作る細胞”ということになります。

幹細胞とは?
幹細胞とは?

幹細胞の定義要件
(自己複製能と多分化能)

生体内で重要な役割を果たす幹細胞には、他の細胞には見られない「多分化能」と「自己複製能」という2つの特殊な能力があります。
従って、「幹細胞」の定義要件は、生体内でこの2つの能力を継続的に発揮できることで、この条件を満たさない細胞は「幹細胞」とは認められません。

01

多分化能

皮膚・骨・血管・神経・心臓・毛包…など、
身体を構成する様々な細胞に分化する能力

これにより、体内の損傷した組織の修復や、老化した組織への細胞の補充を行っています。例えば、怪我によって皮膚に傷を負い、皮膚の細胞が失われた際、それまでは未分化のまま待機していた幹細胞が皮膚の細胞へと分化していきます。
02

自己複製能

自分と全く同じ能力を
持った細胞を複製する能力

体内各部位の組織の損傷や老化に伴い減少した細胞を補充するため、幹細胞が特定の細胞へと分化する際には、自分自身(幹細胞)を複製して残します。
幹細胞の特殊な能力

幹細胞の種類と特徴
(多能性幹細胞と組織幹細胞)

このように希少な幹細胞には、「多能性幹細胞」と「組織幹細胞」の2種類があります。

多能性幹細胞

身体のあらゆる細胞を作り出すことができる万能の細胞で、これに該当するのは、受精卵から形成される胚性幹細胞だけです。iPS細胞やES細胞は、この多能性幹細胞を人工的に作製したものです。

ES細胞(胚性幹細胞)とは?

「ES細胞」とは「Embryonic Stem Cell」の略で、日本語では「胚性幹細胞」と言います。
「胚」とは、受精卵の分裂開始から約5日目に形成される100個程度の細胞の塊のことで、この胚の内側にある細胞を取り出して人工的に培養したものがES細胞(胚性幹細胞)です。
ES細胞は、ほぼ無限に分裂を繰り返すことができ、体内のあらゆる組織の細胞に分化誘導可能な多能性幹細胞であるため、再生医療のソースとして商業面で有望視されています。
ただし、同種ドナー(他人)の細胞であるため免疫拒絶の対象となること、受精卵から形成される生命の源である「胚」を破壊して使用することに倫理面の問題が残ります。

iPS細胞(人工多能性幹細胞)とは?

患者自身の皮膚などの組織から採取した細胞に、リプログラミング因子と呼ばれる特定の因子群を導入したものをiPS細胞(Induced Pluripotent Stem Cell)と呼び、世界で初めて作製に成功した山中教授により命名されました。
このiPS細胞は、ES細胞と同様にあらゆる組織の細胞に分化可能な人工多能性幹細胞で、ES細胞のように倫理的な問題がないため大きな期待を集めています。
いっぽうで、大量培養が困難であること、個体差に依存するため品質の再現性が乏しいこと、腫瘍化のリスクが解明されていない等の事情で、現段階では世界的な臨床普及に至っていません。

組織幹細胞

特定の組織や臓器内で、失われた細胞の代わりを造り続ける細胞で、外胚葉系・中胚葉系・内胚葉系のいずれかの幹細胞から分化したものです。
この組織幹細胞は何にでも分化できるのではなく、血液を造る造血幹細胞は、赤血球、白血球、血小板など血液系の細胞にのみ分化するように、それぞれの系統に限定した分化能を有しています。

加齢と共に激減する
体内の幹細胞

特殊な能力を備えた希少な幹細胞ですが、残念ながら、生誕時には約100億個も存在しているものの、年齢を重ねる毎に激減し、80代になると平均1億個未満となってしまいます。
そのため、損傷を受けた組織の細胞への分化が不十分となり、結果として、炎症の悪化や老化が加速することで、最終的に死に至ることになります。
すなわち、老化(死)とは幹細胞の減少・消滅に他なりません。

加齢と共に激減する体内の幹細胞

再生医療に多用される
「間葉系幹細胞(MSC)」

当院をはじめ日本のクリニックが厚生労働省に届出ている幹細胞治療の提供計画(第二種再生医療等提供計画)においては、「組織幹細胞」の一種である「間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell/略称MSC)」を使用します。
この間葉系幹細胞とは、血液系、神経系など同一の系統の細胞群のみに分化する他の組織幹細胞とは異なり、脂肪・骨・軟骨・血管壁など役割が異なる中胚葉系の一部の組織細胞に分化できる一定の多分化能を有する希少な細胞です。ただし、iPS細胞やES細胞と異なり、ある程度分化が進んだ細胞ですから、分化先には制限があります。ルーツが異なる「内胚葉系」や「外胚葉系」の組織の細胞に分化することはできませんから、内胚葉系の臓器である膵臓や、外胚葉系の組織である脳の細胞に分化することは不可能です。
間葉系幹細胞は、もともと体内に存在する細胞であるため、iPS細胞における癌化のリスクやES細胞における倫理面の懸念もありません。
このため、2000年前後から再生医療への応用に期待が高まり、現在までに国内外を問わず様々な疾患に対する臨床実績が蓄積され、高い安全性が確認されています。

間葉系幹細胞(MSC)の
「分化」に関する
疑義と
国際的コンセンサス

いっぽうで、“幹細胞”の定義要件である「多分化能」については、培養環境下で人為的な分化誘導を行うことで成立するものの、生体内では分化を示すエビデンスが非常に乏しく、実際には、幹細胞としての分化機能をほとんど果たしていないという事実が次第に明らかになってきました。
発見当初は、骨・軟骨・脂肪などへの多分可能が注目され、再生医療への応用に期待が高まった間葉系幹細胞ですが、現実は、他の体細胞への分化は、組織内の強い分化誘導シグナル(軟骨におけるTGF-β、脂肪組織内のPPARγなど)の発現や、細胞間接着・機械的ストレスなどで物理的に組織内に取り込まれるケースなどに限定され、生体内での主な役割は分泌機能と免疫調整であることが解明されています。

成体幹細胞の「分化転換」を証明した論文は皆無と総括したレビュー(2004年) 136件の論文を精査し造血幹細胞の心筋などへ分化転換を否定したスタンフォード大学の研究
「Plasticity of Adult Stem Cells」

筆者:Amy J. Wagers ほか

研究機関:スタンフォード大学(米国)

雑誌名:Cell(10.1016/s0092-8674(04)00208-9)

レビュー論文数:136件

【要旨/結論】

成体哺乳類の幹細胞が組織系統の境界を越えて分化(分化転換/可塑性)する可能性に大きな期待が寄せられ、それらが新規で利用しやすく汎用的な再生医療の担い手になると考えられてきた。しかし、こうした予想外の変化は極めて稀で、代替論で説明されうる。本稿では、主にマウスの研究を対象に、骨髄・造血前駆細胞が固形臓器の細胞へ、また非血液組織の幹細胞が造血系へ「分化転換した」とする報告を批判的に評価し、それらを説明しうる機構と、真の分化転換と認めるための基準、そして臨床的意義を総括した。

【結論】

①報告の再現性の低さ

骨髄細胞が皮膚・肺・腸・腎・肝・膵・骨格筋・内皮・心筋・神経など多様な非造血組織へ寄与したとの報告が相次いだが、検出頻度は0.1%未満から約20%まで大きくばらつき、多くは大きな組織傷害を要した。一方、同様の系で寄与を検出できなかった報告も相当数あり、再現性に問題がある。

②「可塑性」を説明しうる代替機構

見かけの分化は、必ずしも真の分化転換ではなく、①分化転換、②脱分化、③検体への複数幹細胞の混在、④稀な多能性幹細胞の存在、⑤細胞融合、で説明できる。とくに循環する造血幹細胞(HSC)が全身の非造血組織を汚染する点と、細胞融合が重要である。

③真の分化転換を証明する厳格な基準

分化転換を証明するには、①ドナー特異的+組織特異的マーカーと機能で系統移行を定量的に示す、②クローン解析で複数幹細胞の混在を排除、③核のリプログラミング(元の遺伝子の沈黙と新系統遺伝子の活性化)を示す、④培養を介さず最小限の操作で評価、⑤細胞融合によるマーカー移行を排除し、複数の研究室・複数モデルで独立に再現が必要である。
これらに照らすと、真の分化転換を立証した既発表論文は当時一つも存在しない。

◎成体幹細胞が系統境界を越えて分化するという観察の多くは、細胞融合をはじめとする代替機構で説明できる稀な現象であり、異種起源からの細胞動員が正常で頑健な組織再生機構である可能性は低い。

【意義/新規性】

「成体幹細胞は系統を越えて分化し再生医療に使える」という当時の主張を無批判に受け入れず、報告された分化転換の多くが①ホーミング/可塑性の低頻度、②循環HSCによる組織汚染、③検体の不均一性、④細胞融合によるマーカー移行、で説明可能であることを体系的に整理した。さらに真の分化転換を認定する厳格な基準を初めて明文化し、当時その全てを満たした論文は存在しないと結論づけた。

成体幹細胞の「分化転換」を証明した論文は皆無と総括したレビュー(2004年)
MSCの治療効果の主軸がパラクライン作用であることを体系的に整理(2013年) 分化置換、細胞融合、ミトコンドリア移送と比較したパラクライン作用の優位性の分析
「Paracrine Mechanisms of Mesenchymal Stem Cell-Based Therapy: Current Status and Perspectives」

筆者:Xiaoting Liangほか

研究機関:香港大学(中国)

雑誌名:Cell Transplantation(10.3727/096368913X667709)

レビュー論文数:137件

【要旨/結論】

変性疾患や炎症性疾患の治療に大きな可能性を提供するMSC治療効果の機序として、分化転換・細胞融合・パラクライン・エクソソーム分泌・ミトコンドリア移送を比較検証。そのうち、パラクラインを、急性・慢性いずれの応答でも機能回復に寄与する最も包括的かつ持続的な作用様式と位置づけ、今後の展望を示した。

【結論】

①MSC治療が損傷組織の構造的完全性と機能の回復に寄与することは疑いないが、その基盤的・詳細な生物学的機構はさらなる解明を要する。

②分化転換と細胞融合は頻度が低すぎて意義ある改善を説明しにくい。エクソソーム分泌とミトコンドリア移送では、エクソソームのカプセル化やエネルギー輸送を生み出すのに十分な量と質を備えたスケールアップ可能な細胞ソースを見つけられていない。パラクライン作用(paracrine actions)の課題 MSCから放出されるサイトカインやケモカインの一部(例:TNF-α、IL-6)は有害となり得る。
このように分化転換・細胞融合・パラクライン・エクソソーム分泌・ミトコンドリア移送の各機構にはそれぞれ課題がある。

③パラクライン作用には、TNF-αやIL-6など有害となり得る因子の存在といった限界もあるが、前処理(preconditioning)や遺伝子改変で分泌プロファイルを容易に改善できる。

④MSCの利点は、微小環境に応じて栄養因子を持続的かつ適度な濃度で放出できる点にあり、パラクライン効果は制御可能・管理可能・実現可能な経路として、基礎から臨床への移行を近い将来より現実的にする大きな可能性を持つ。

【意義/新規性】

分化や細胞融合は頻度が低すぎて意義ある改善を説明しにくいとし、パラクライン機構の比較優位性を示した。

MSCの治療効果の主軸がパラクライン作用であることを体系的に整理(2013年)
MSCに関する「通説」と「事実」を整理した重要なレビュー(2015年) 124件の論文を精査し、通説である「分化」「ホーミング」を否定、パラクライン支持
「Mesenchymal Stem Cells: myths and reality」

筆者:Adelaida Sarukhanほか

研究機関:INSERM(フランス)

雑誌名:Swiss Medical Weekly(10.4414/smw.2015.14229)

レビュー論文数:124件

【要旨/結論】

MSCは過去20年間、大きな注目を集めてきた結果、MSC生物学と幅広い疾患を治療する能力を扱う研究が前臨床・臨床レベルで指数関数的に増えたが、しばしば紛らわしく相反する結果を伴ってきており、定義の曖昧な細胞調製物や実験モデルの使用が混乱に拍車をかけた。本レビューは、MSC生物学に残る主要な未解決問題を同定し、内因性MSCと治療用MSCに関する「事実」を「神話」から区別することを試みる。

【結論】

① MSCはすべて多能性の幹細胞か

培養されるMSCはすべて多能性の幹細胞であるとされてきたが、実際に多能性をもつ”bona fide”な幹細胞はごく一部にすぎない。また、移植したMSCが標的組織に生着・分化して失われた細胞を置き換えるin vivoでの分化の証拠は乏しい。臨床的改善はむしろMSCが分泌するパラクライン因子(血管新生・抗炎症因子など)によると考えられる。

② MSCは損傷・炎症組織へ遊走して局所で作用するか

MSCは損傷・炎症組織へ遊走して局所で作用するとされてきたが、全身投与MSCの大半は肺に捕捉され早期に死滅し、標的に届く数は極めて少ない。遊走を制限した投与でも遠隔効果が出るため、ホーミングは必須でなく、可溶性因子によるパラクライン/エンドクライン作用で説明できる。

③ MSCは恒常的に免疫抑制的か

MSCは常に免疫抑制機能を発揮するとされているが、MSCは構成的に抑制的なのではなく、炎症環境(IFN-γやTNF-αなどの炎症性サイトカイン)によって免疫調節機能が「活性化」される機構を持つ。そのため、炎症応答の発生後に投与した方が効果的とされる。

④ 同種MSCは免疫に拒絶されないか

MSCは免疫学的に特権的で、誰にでも使える”one-size-fits-all”な製剤になりうると考えられてきたが、MSCは免疫原性が低いものの、免疫特権をもつわけではないことが分かっている。IFN-γでMHCクラスI/IIが上昇し、同種MSCは免疫応答を誘発して拒絶されうる。特に反復投与では免疫記憶が生じるため注意が必要である。

⑤ MSCの治療価値は幹細胞性(再生能)にあるか

MSCの臨床的価値は幹細胞としての分化・再生能に由来するとされてきたが、臨床的価値はむしろ免疫調節活性に由来する。

◎総じて、MSCをめぐる通説の多くは、定義の曖昧な細胞集団と不適切なモデルが生んだ「神話」であった。確かな事実は、真の幹細胞は少数派である点、臨床価値は分化能ではなく免疫調節能にある点、MSCはホーミングせずともパラクライン・エンドクラインに作用する点、の3点に集約される。

【意義/新規性】

MSC分野に蓄積した「神話」を内因性/外因性に分け、4つの鋭い問い(同一起源か/幹細胞か/ホーミングは必須か/恒常的に免疫調節性か)の形で正面から問い直し、in vitroの所見をin vivoの実態と取り違えてきた混乱を腑分けした。特に「MSCの臨床的価値は幹細胞性ではなく免疫調節能にある」「免疫調節はデフォルトではなく炎症で活性化される」「ホーミングは必須でなくエンドクラインに効く」という3点を明確に打ち出した。

MSCに関する「通説」と「事実」を整理した重要なレビュー(2015年)
MSC本体とMSC由来細胞外小胞(エクソソーム)の機能の網羅的比較(2023年) 357件の論文を精査し、MSCの分化能とEVsの再現性について系統別に比較した総説
「Mesenchymal Stem Cells and Their Exocytotic Vesicles」

筆者:Hao Caiほか

研究機関:上海中医薬大学(中国)

雑誌名:International Journal of Molecular Sciences(10.3390/ijms24032085)

レビュー論文数:357件

【要旨/結論】

多能性幹細胞であるMSCは、骨形成能・軟骨分化能・脂肪分化能から、整形外科疾患・老年病・代謝疾患・運動機能の分野で注目されており、抗炎症・抗線維化・血管新生促進・神経新生・免疫調節、および分泌する増殖因子・プロテアーゼ・ホルモン・サイトカイン・ケモカインは、肝腎疾患や心脳血管疾患で広く研究されている。近年、MSCの細胞外小胞(EV)が上記すべての側面でMSC移植と類似の機能をもつことが多くの研究で示されたため、本総説はMSCとその分泌小胞に関する近年の研究進展を概観する。

【結論】

① MSCは組織の由来ごとに分化能・マーカー・臨床効果が異なる

骨髄・脂肪・脳・肺・膵・滑膜・末梢血など多様な組織から得られるMSCは、大半がCD44/CD73/CD90/CD105を発現する。マーカーの違いは胚系・組織由来・機能特性の違いを意味し、由来ごとに用途が異なる。

② MSCは肝・腎・膵で栄養因子・抗線維化因子を分泌し、組織を保護する

MSCはHGF・IGF-1・VEGF・FGF2・EGF・PDGF等の栄養因子を放出し、TGF-β1活性阻害・酸化ストレス抑制・ECMリモデリングを介して抗線維化・細胞保護効果を発揮する。腎では炎症性細胞浸潤やRAAS亢進を抑え、肝では肝星細胞活性化を抑制する。

③ 心血管系ではMSCは血管新生・抗酸化・免疫調節で心機能を保護する

MSCは梗塞サイズを抑え、VEGF・PDGF・angiopoietin・HGFやmiR-21等で血管新生を促す。post-infarctでM1マクロファージを減らしM2へ極性化させ、TGF-β/IL-10/HGF/PGE2/IDOを介して炎症を抑制する。

④ 神経系ではMSCは抗アポトーシス・神経新生・血液脳関門保護で神経損傷を修復する

MSCはER stress・IL-6/STAT3・Cx43/Nrf2を介して、中枢神経系に属するアストロサイトのアポトーシスを抑制し、NGF・BDNF等で神経突起伸長・神経新生・シナプス伝達を促す。また、ミクログリアのM2極性化、ANXA1/FPR軸を介した血液脳関門の安定化、MMP-9抑制によって神経保護を発揮する。

⑤ MSCは主要免疫細胞すべてを調節する

MSCはマクロファージをM1→M2へ極性化し、B細胞増殖・分化を抑制する。また、樹状細胞の成熟・抗原提示を抑え、T細胞をG0/G1に留めてTreg(CD4⁺CD25⁺)を誘導し、NK細胞の細胞傷害・増殖・IFN-γ産生も抑制する。

⑥ MSC由来EV(Exos/EVs)はMSCと同等の機能をもつ

MSCのマイクロベシクル(Exos/EVs)は長い半減期・低免疫原性・高い透過性・生体適合性をもち、骨・肝腎・心血管・神経・免疫の各系統でMSC本体と類似の組織再生・免疫調節・抗炎症効果を発揮する。

◎MSCの治療効果は分化そのものより、分泌する栄養因子・サイトカイン・miRNAを介したパラクライン作用と免疫調節が主体であり、その担い手は細胞外小胞(Exos/EVs)に集約されつつある。生きたMSCを丸ごと投与せずとも、その分泌小胞だけで全系統にわたり類似の効果が得られることを示した。

【意義/新規性】

MSC本体とそのEV(Exos/EVs)の作用を、骨・脂肪・肝腎膵・心血管・神経・免疫という全系統にわたって、シグナル経路・転写因子・miRNA単位で網羅的に一覧化した。特に「MSC-EVsがほぼ全領域でMSC本体と同等の効果をもつ」ことを横断的に示し、cell-free(細胞を使わない)治療の根拠を体系づけた。

MSC本体とMSC由来細胞外小胞(エクソソーム)の機能の網羅的比較(2023年)
237件の論文を整理し臨床試験の成否のポイントを総括した最新レビュー(2025年) 前臨床の成功とのギャップを製品の標準化・個別化・工学的革新による克服可能性を示唆
「From bench to bedside: translating Mesenchymal Stem Cell therapies through preclinical and clinical evidence」

筆者:Jai Chand Patelほか

研究機関:ネブラスカ大学医療センター(米国)

雑誌名:Frontiers in Bioengineering and Biotechnology(10.3389/fbioe.2025.1639439)

レビュー論文数:237件

【要旨/結論】

MSCは生着に依存する従来の細胞治療と異なり、主にパラクライン・シグナリング(VEGF・TGF-βやエクソソームなどの生理活性分子の分泌)を介して機能する。近年、損傷細胞へミトコンドリアを供与してエネルギー機能を回復させる「ミトコンドリア移行」という新機序も同定され、ARDSや心筋虚血まで治療対象が広がった。本稿では、パラクライン・免疫調節・ミトコンドリア移行という3機序を軸に、1,200超の臨床試験の到達点と限界を整理し、CRISPR・AI・3Dバイオプリンティング等の解決策まで網羅する。

【結論】

① MSCの作用機序は「パラクライン・免疫調節・ミトコンドリア移行」の3軸

初期研究は分化能を重視したが、現在はパラクライン活性(Secretome)が治療効果の中心と認識されている。MSCはEV・サイトカイン・増殖因子を分泌し、血管新生・抗アポトーシス・抗線維化を促す。また、サイトカイン(PGE2・IDO・PD-L1)でT細胞増殖を抑え、Th1/Th17→Th2/Treg平衡を寛容方向へ傾け、自然免疫・獲得免疫の両方を調整する。さらに、MSCはトンネルナノチューブ(TNT)を通じて健常なミトコンドリアを損傷細胞へ供与し、ATP産生を回復させ、酸化ストレスを軽減する。

② 多疾患・多動物種で示された有効性の多くが臨床的成功に結び付かない

心血管(梗塞30〜40%減)や神経(脳梗塞体積50%減)、自己免疫(EAE/CIA)、肺(ブレオマイシン肺線維症・LPS-ARDS)・整形(軟骨/骨)で有効性が実証されたが、疾患病態のモデルと実情が乖離しているケースや、若く均一な動物と高齢で多様なヒトが同一ではない点、マウスでは免疫特権でもヒトでは排除されうる点などが障壁となっている。さらにソース・ドナー・培養・投与法のばらつき、長期追跡の欠如(腫瘍化の見逃し)も臨床への橋渡しを妨げている。

③ 臨床第I/II相の課題

全世界で1,200超のMSC試験が登録され、種投与経路で短期的な安全性が一貫して示された。ただし、ポテンシーのばらつき・最適用量未確定・静注MSCの肺捕捉・バイオマーカー層別化の欠如が課題となっている。

④ 臨床第III相の課題

急性GvHDのREMODEL第III相は60%が完全奏効で、Temcellが2015年に日本で世界初のアロMSC製品として承認された一方、慢性GvHDのSTAR試験、心不全のCHART-1、心筋梗塞のTRIDENT、ALSのNeuroNEXTは主要評価項目が未達であった。製品の標準化(ロット間ばらつき)、盲検不足によるプラセボ効果、規制の分断(EMAは長期安全性、FDAは機序バイオマーカー/ポテンシー試験、日本PMDAは第II相で早期承認)なども課題である。

⑤ 製造・スケーラビリティの課題

ドナー特性や組織源、培養条件で機能が変動するため、臨床効果を予測できない。2D培養では細胞数が少なく、3Dバイオリアクターは100倍の細胞数を回収できるが酸素管理などが課題となっている。また、GMP対応のゼノフリー培地は高価であり、培地コストも商業化の課題となっている。

⑥ 適用新技術

低酸素/サイトカイン前処理、3Dスフェロイド、バイオマテリアル足場、cell-freeなエクソソーム工学、AIによる製造最適化・ポテンシー予測・患者層別化などによって課題解決が進められている。

◎MSC治療の「前臨床の有望さと臨床現実のギャップ」は、標準化(普遍的ポテンシー試験)、個別化(バイオマーカー層別化・オミクス)、技術革新を統合することで解決できると考えられる。

【意義/新規性】

MSC治療を「作用機序→前臨床→臨床(第I/II/III相)→安全性・免疫原性→製造・規制→新技術→将来」という橋渡し(translation)の全工程に沿って縦断的に整理した。特に、前臨床の成功が第III相で再現されない理由について具体的な試験名(REMODEL, STAR, CHART-1, TRIDENT, NeuroNEXT, Cx601/ADMIRE-CD)を挙げ、承認に至った例(Temcell, Alofisel)と失敗例を対比し、その課題解決を論じた。

237件の論文を整理し臨床試験の成否のポイントを総括した最新レビュー(2025年)

つまり、「分化する能力はあるが実際の生体内での寄与は不明」ということです。
また、現在の再生医療で使用される“間葉系幹細胞”と見なされている培養細胞は、性質の異なる極めて不均一な細胞集団であることも判明しています。
そのため、治療効果の主作用は分化による組織置換ではなく免疫調整や環境整備であることが広く認識されています。この結果、近年、治療に使用する培養細胞を“Mesenchymal Stem Cell”(間葉系幹細胞)と呼称するのは不適切であり、“Mesenchymal Stromal Cell”(間葉系間質細胞)と呼称すべきという国際的なコンセンサスが形成され、 日本再生医療学会もこれに倣って公式文書における表記を「間葉系間質細胞」に統一することを公表しています。

間葉系幹細胞
間葉系間質細胞

では、この「間質細胞」とは何なのでしょうか?
以下に解説します。

間質細胞(Stromal Cell)の
特性と種類

「間質細胞」
(Stromal Cell)とは?
実質細胞との違い

生体内の臓器は、「実質細胞」と「間質細胞」で構成され、役割分担して機能しています。「実質細胞」とは、その臓器の主役となる細胞のことで、例えば、肝臓なら解毒・代謝を担う肝細胞、心臓なら拍動を担う心筋細胞が該当します。
これに対し、「間質細胞」とは、実質細胞を取り囲む微小環境を構成する細胞で、「主役である実質細胞が機能するための環境を維持・調整するサポート細胞」の総称です。

「間質細胞」(Stromal Cell)とは?実質細胞との違い
「間質細胞」(Stromal Cell)とは?実質細胞との違い

生体内における
間質細胞の主な役割

間質細胞は、生体内で主に以下の作用を通じて実質細胞をサポートしています。

構造的サポート

細胞外マトリックス(コラーゲン、フィブロネクチンなど)を産生・維持し、組織の物理的な足場を作る。

栄養・代謝サポート

血管形成や栄養供給を介して、実質細胞の生存を支える。

免疫調節

炎症の開始・収束に関与し、過剰な免疫反応を抑制する。

組織修復・再生

損傷シグナルに応じて増殖・分化し、組織の修復を主導する。

シグナル伝達

サイトカイン・成長因子を分泌し、周囲の細胞の挙動を調節する(パラクライン効果)。

間質細胞の種類

間質細胞は、単一の細胞ではなく、以下のような種類があります。

(Fiboblast)
代表的な間質細胞。
皮膚の真皮層を構成し、コラーゲンやエラスチンなどの細胞外マトリックスを産生する。
創傷治癒・瘢痕形成に中心的な役割を果たす。
(MSC)
骨髄・脂肪・臍帯などに存在する多能性の間質細胞。
骨・軟骨・脂肪への分化能を持ち、強力な免疫調節とパラクライン作用で注目される。再生医療の主役。
(Pericyte)
毛細血管の周囲に存在し、血管の安定性・透過性を調節する。
MSCの前駆細胞としての側面も持つ。
(Myofibroblast)
線維芽細胞が活性化・分化した細胞。
収縮能を持ち、創傷の収縮と組織修復を担う。
過剰活性化すると線維化(瘢痕・硬変)につながる。
(Adipocyte)
脂肪組織の構成細胞。
エネルギー貯蔵にとどまらず、アディポカインを分泌して代謝・炎症調節に関与する間質的側面を持つ。
(Endothelial Cell)
血管・リンパ管の内壁を形成。栄養・酸素供給の管理役として間質環境を規定する。
(Immune Stromal Cell)
マクロファージ・肥満細胞・樹状細胞など、組織に常駐する免疫細胞。
炎症応答と組織恒常性の維持を担う。

間葉系幹細胞
/間葉系間質細胞(MSC)の
性質と機能

MSCの種類
(骨髄・脂肪・臍帯・
歯髄などの由来別)

MSCは、体内の骨髄、脂肪、臍帯、歯髄などの各組織内に少量存在しています。
歴史的には、1960年代のFriedensteinらによる骨髄ストローマ細胞/CFU-F(Colony-Forming Unit-Fibroblast)の研究が出発点で、最初に骨髄内で見いだされ、その後、脂肪・臍帯・歯髄など多様な組織にも存在することが明らかになりました。
これらの由来の異なるMSCは、いずれも「自己複製能」と「多分化能」を備え、組織修復の鍵を握る成長因子やサイトカインなどの分泌機能を有している点が共通です。
それぞれの臨床上の位置づけとしては、骨髄由来は最も研究の歴史が長く、脂肪由来は採取しやすく収量に優れ、臍帯由来は増殖性とドナー由来の細胞製剤への利用のしやすさ、歯髄由来は歯科・顎顔面領域との親和性が注目されています。このように、MSCは“どれが絶対に優れているか”ではなく、目的疾患や治療設計に応じて適切な由来を選ぶことが重要です。
当院の幹細胞治療においては、組織量が豊富で、骨髄と比べて採取が容易な脂肪由来の間葉系幹細胞(ADSC)を使用しています。

間葉系幹細胞の種類(由来別)

MSCの生体内での活動
(休眠~活性化・
分裂のプロセス)

MSCは生誕時には、体内に約数億~10億個存在していると言われています。
平時は脂肪や骨髄などの組織内で、いわば”休眠状態”でプールされており、数百種類の成長因子やサイトカインなどの生理活性物質を適量分泌して、主に免疫調整を通じた組織内の環境整備を行っています。

幹細胞の体内での活動(休眠と分裂)

ところが、組織内に炎症や損傷が発生すると、IL-6、TNF-αなどの炎症性サイトカインの刺激を受けて活性化し、活発に分裂を開始します。
また、活性化したMSCは、炎症抑制や組織修復に有用なHGF、VEGF、TGF-βなどの成長因子を活発に分泌し、これらが組織を再生します。
このようなMSCが分泌する成長因子やサイトカインによる組織修復、再生作用のことを「パラクライン効果」と呼び、これがMSCの最も重要な機能です。

幹細胞の体内での活動(休眠と分裂) 幹細胞の体内での活動(休眠と分裂)

いっぽう、MSCは、遠隔の組織の炎症や損傷に対しても、サイトカインを介してシグナルを受信すると活発に成長因子を放出し、これらの成長因子が血液を通じて炎症部位に到達し、組織修復を行います。
このようなMSCが分泌する成長因子やサイトカインが血流を介して遠隔組織の修復や再生を行う作用を「エンドクライン効果」と呼びます。
従って、炎症や損傷のシグナルに対する感受性が高く、組織修復や再生に必要な成長因子を豊富に分泌できるのが活性度の高い健全な幹細胞です。
そして炎症が収まり組織修復が完了すると、MSCはもとの休眠状態に戻り、成長因子の分泌も少なくなります。

MSCの3つの重要な機能

生体内に存在するMSCは、主に以下の作用を通じて、組織細胞をサポートし、組織の維持や修復、再生を行っています。これらの作用は、主にMSCの分泌機能(パラクライン効果やエンドクライン効果)によるものです。

炎症抑制
(成長因子による組織修復と再生)

MSCが分泌するHGF(肝細胞増殖因子)やTGF-β(トランスフォーミング成長因子)は、強い創傷治癒効果があり、細胞の生存環境を整備し、アポトーシスの抑制を通じた組織再生を行います。

炎症抑制

血管新生
(糖尿病や動脈硬化による虚血の改善)

MSCが分泌するVEGF(血管内皮細胞増殖因子)には強力な血管新生作用があり、糖尿病や動脈硬化などの慢性炎症により狭窄した血管の周囲に側副血管を新生し、新たな血流を確保することで周辺組織の維持を図ります。

炎症抑制
炎症抑制

免疫調節
(自己免疫の制御による炎症抑制)

MSCの最も特徴的な機能は、自己免疫の制御(コントロール)です。

生体における免疫システム(防御と寛容のバランス)とは?

生体内の免疫システムには、細菌や腫瘍を排除する「防御」と、自己や無害物排除を防止する「寛容」の両立が必要で、様々な免疫系の細胞のネットワークで成立します。

生体における免疫システム(防御と寛容のバランス)とは?

ところが、このバランスが崩れ、防御が弱くなると、易感染性、つまり細菌・ウイルス・真菌に感染しやすくなり、逆に防御が過剰になると自己免疫異常が生じます。
自己免疫異常とは、過剰に活性化した免疫が誤って自分の細胞を攻撃し破壊することで、主な自己免疫疾患として、関節リウマチ、クローン病、1型糖尿病、全身性エリテマトーデスなどがあります。
つまり、免疫は「防御 対 自己損傷」という二律背反を抱えるシステムなのですが、MSCはその折り合いをつけるための調整、特に免疫の過剰な活性化を防ぎ寛容を維持する役割を果たしています。この結果、日常的に病原体と闘いつつ自己を守り、過剰反応や慢性炎症を防いで健康を維持できるわけです。

天秤
天秤

MSCの免疫調整作用には主に以下の2つのアプローチがあります。

① 分泌物によるパラクライン効果(免疫調整の主軸)

MSCが分泌するTGF-β、HGFをはじめとする成長因子やIL-10などのサイトカインは、T細胞を抑制し、マクロファージやNK細胞の活性度の調整を通じて免疫をコントロールしています。
このようなMSCの分泌物によるパラクライン作用が免疫調整の主役です。

② 細胞接触による直接的な免疫制御

MSC自体が近接する細胞に接着し、T細胞抑制や免疫細胞の制御を直接行っています。こちらは、パラクライン作用の補助的な作用です。

免疫調節

MSCの老化と寿命

このように、体内のMSCは休眠と、活性化による分裂を繰り返していますが、標準的なMSCの分裂可能回数は、20回~40回程度とされています。
MSCは分裂を重ねるにつれて、細胞内の染色体が損傷され、DNAを保護している両端のテロメアが短縮し、徐々に老化細胞に変質していきます。

MSCの老化と寿命
MSCの老化と寿命

老化したMSCは、パラクライン分泌機能が顕著に低下し、それ以上分裂できなくなると機能が完全に停止し、一部はアポトーシス(細胞死)を迎えて消滅します。
また、MSCは、分裂回数以外に、炎症など生存環境の影響も受けます。
例えば、糖尿病などで慢性的な炎症に晒されているMSCは、たとえ分裂回数が少なくてもダメージを受けることで健常者のMSCより早期に老化しやすい傾向があります。
この結果、身体の各組織内には、未分裂の若いMSCと、分裂の蓄積や慢性炎症により機能が低下した老化細胞が共存しており、加齢と共に老化細胞の割合が増え、他の組織幹細胞と同様に細胞数自体も減少します。

免疫調節

間葉系幹細胞(MSC)の
歴史的評価と
科学的エビデンスの検証

ここで、間葉系幹細胞(MSC)を正しく理解するために、発見当時から現在に至るまでどのように研究、評価されてきたのか、その時代を代表する論文を通じて判明した事実を踏まえて時系列で解説します。

各年代の代表的な論文

1970〜80年代
(骨髄ストローマ細胞の研究の進展)

1990〜2000年前後
(多分化能の証明/「間葉系幹細胞」の命名)

1999年
2001年
脂肪組織内に多分化能を備えたMSCを発見 P.A. Zuk / カリフォルニア大学(米国)

2000年代前半
(MSCの分化能に対する疑念の蓄積/ISCTの警鐘)

2002年
細胞融合が分化したと誤認される可能性を示唆 Naohiro Terada / フロリダ大学(米国)
2004年

2000年代後半~2010年代前半
(静脈投与与MSCの肺トラップ・短期生存の証明)

2007年
パラクライン効果を臨床的に示唆した重要な実験論文 Leo Timmers / ユトレヒト大学医療センター(オランダ)
2009年
2009年
MSCの分化による治療効果を否定した初期の代表的レビュー Darwin J. Prockop / テキサスA&Mヘルスサイエンスセンター(米国)
2012年
移植MSCの肺捕捉後の短寿命とアポトーシス後の免疫応答を示唆 E. Eggenhofer / レーゲンスブルク大学医療センター(ドイツ)

2010年代半ば~後半
(MSCのアポトーシスと免疫系による貪食の重要性が浸透)

2016年
MSCのホーミング能力が極めて低い原因を分析した重要レビュー Ann De Becker / ブリュッセル大学病院(ベルギー)
2017年
MSCのアポトーシスを介した免疫調節作用の機構的証拠 Antonio Galleu / キングス・カレッジ・ロンドン(イギリス)
2017年
エクソソームへの潮流を示す象徴的なレビュー Donald G. Phinney / スクリプス研究所(米国)
2018年
アポトーシスMSCを貪食した単球による免疫再教育を実証 Samantha F.H. de Witte / エラスムス医療センター(オランダ)

2020年代~現在
(細胞のプレコンディショニングなど臨床効果向上策の模索)

2021年
免疫抑制におけるMSCのアポトーシス/貪食の必要性を示した重要な実験論文 Swee Heng Milon Pang / モナッシュ大学(オーストラリア)
2023年
MSCの治療効率を高めるための細胞の「前処理方法」を整理したレビュー Mohammad Saeed Kahrizi / アルボルズ医科大学(イラン)
2025年
237件の論文を整理し臨床試験の成否のポイントを総括した最新レビュー Jai Chand Patel / ネブラスカ大学医療センター(米国)

1960年代 (MSCの原点である
「骨髄ストローマ細胞」の
発見)

ソビエト連邦のFriedensteinらが、骨髄中に、骨形成能を備えた「骨髄ストローマ/CFU F」を報告。培養容器のプラスチック付着性が特徴で、マウスやラット、ニワトリなどの細胞を使用した実験で骨や軟骨に分化できることを確認、以降の間葉系幹細胞に関する研究の出発点となった。

1960年代(MSCの原点である「骨髄ストローマ細胞」の発見)
1960年代(MSCの原点である「骨髄ストローマ細胞」の発見)

1970~80年代 (骨髄ストローマ細胞の
研究の進展)

骨・軟骨を形成する骨芽細胞系と位置付けられ、効率的に分化誘導させるための培養手法の研究や動物モデル実験が進展する。

1990年代~2000年前後 (多分化能の証明
/「間葉系幹細胞」の命名)

【1990年代の主な報告/判明した事実】

  • 培養環境下で、ヒト骨髄由来のストローマ細胞が、骨・軟骨のみならず脂肪組織細胞へも分化、いわゆる「三方分化」が証明される。
  • 培養環境下の実験で多分化能・増殖能と免疫寛容性が示され、動物モデルへの移植で組織修復効果を示す報告が散見される。

【1990年代のコンセンサス】

あたらしく発見された多能性細胞は、移植後に目的組織に分化して組織再生を担う、という根強い期待が存在し、再生医療における臨床応用が本格化した。

~”Mesenchymal Stem Cell”(MSC)の命名~

ヒト細胞の骨・軟骨・脂肪への多分化能が広く認識される過程で、1991年、米国の学者Arnold Caplanが、“Mesenchymal Stem Cell(略称MSC)”(間葉系幹細胞)という名称を提唱し、幹細胞としての概念が広まった。

~”Mesenchymal Stem Cell”(MSC)の命名~

【代表的な論文】

あたらしく発見された多能性細胞は、移植後に目的組織に分化して組織再生を担う、という根強い期待が存在し、再生医療における臨床応用が本格化した。

ヒト骨髄由来MSCの多分化能を決定的に示した代表的実験論文(1999年) 培養環境下でヒト骨髄由来MSCから骨・軟骨・脂肪への三方分化に成功
「Multilineage potential of adult human mesenchymal stem cells」

筆者:M. F. Pittenger ほか

研究機関:Osiris Therapeutics(米国)

雑誌名:Science(10.1126/science.284.5411.143)

【要旨/結論】

本稿では、成体骨髄に存在する多能性細胞で、未分化のまま増殖でき、骨・軟骨・脂肪・腱・筋・骨髄ストローマといった間葉系組織の系統へ分化する潜在能をもつと考えられているヒト間葉系幹細胞(MSC)の存在と多分化能の実証を目的とした。その結果、ドナーの骨髄吸引液から分離したMSCの特徴を有する細胞が安定した表現型を示し、in vitroで単層を維持すること、誘導により脂肪・軟骨・骨の各系統へ選択的に分化させることができること、さらに単一細胞をコロニーへ拡大しても多分化能を保持することを示した。

ヒト骨髄由来MSCの多分化能を決定的に示した代表的実験論文(1999年)
ヒト骨髄由来MSCの多分化能を決定的に示した代表的実験論文(1999年)

【実験方法/結果】

実験①:MSCの分離と培養

ボランティアドナーの骨髄吸引液から、MSCの特徴をもつ細胞を分離・培養した。これらの細胞は安定した表現型を保ち、in vitroで単層(monolayer)として維持された。

実験②:三系統への分化誘導

培養したMSCを各分化誘導条件におき、脂肪・軟骨・骨への分化能を評価した。これら成体幹細胞は、脂肪細胞系・軟骨細胞系・骨細胞系のいずれかへ選択的に分化させることが示された。

実験③:単一細胞由来コロニーにおける多分化能の確認

個々の幹細胞を同定し、それをコロニーへ拡大したうえで多分化能が保たれるかを調べた。単一細胞から拡大したコロニーでも多分化能が保持されており、MSCが単一細胞レベルで多分化能をもつ集団であることを確認した。

【意義/新規性】

ヒト成体骨髄から間葉系幹細胞(MSC)を再現性よく分離・培養し、骨・軟骨・脂肪という複数の間葉系系統への分化能を確認するだけでなく、単一細胞レベルでも同様に保持することを初めて体系的に示した。

ヒト骨髄由来MSCの多分化能を決定的に示した代表的実験論文(1999年)
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脂肪組織内に多分化能を備えたMSCを発見(2001年) 骨髄より採取が容易で収量が多い脂肪組織内にMSCを発見、四方分化誘導に成功
「Multilineage Cells from Human Adipose Tissue: Implications for Cell-Based Therapies」

筆者:PA. Zukほか

研究機関:カリフォルニア大学(米国)

雑誌名:Tissue Engineering(10.1089/107632701300062859)

【要旨/結論】

組織工学などの細胞ベース治療には、自家の多分化能幹細胞の供給源が望まれるが、骨髄採取は侵襲・採取量などの限界がある。局所麻酔下で大量かつ低侵襲で得られる代替の自家成体幹細胞源があれば有利である。そこで、本研究は、ヒト脂肪組織から幹細胞集団を分離できるかを明らかにすることを目的とした。その結果、ヒトの脂肪吸引物は多分化能細胞を含み、骨髄由来MSCに代わる幹細胞源になりうることを確認した。

ヒト骨髄由来MSCの多分化能を決定的に示した代表的実験論文(1999年)
ヒト骨髄由来MSCの多分化能を決定的に示した代表的実験論文(1999年)

【実験方法/結果】

実験①:PLA細胞の分離と長期培養特性の確認

脂肪吸引組織(約300cc)をコラゲナーゼ消化などで処理し、ストローマ血管分画(SVF)を経て得た付着性のPLA細胞の継代ごとの倍加と老化(β-Gal染色)を評価した。その結果、300 ccの吸引組織から通常2〜6×10⁸個のPLA細胞が得られた。また、平均倍加時間は約60時間で、第13継代(約165日)まで倍加率はほぼ一定であったことから、PLA細胞が長期培養において安定であることも確認した。

実験②:PLAの組成分析(免疫蛍光・フローサイトメトリー)

細胞種特異的マーカー(内皮:FVIII、平滑筋/ペリサイト:SMA、間葉系:ASO2・ビメンチン)で、PLAの構成を免疫蛍光とフローで定量した。 結果は、PLAの大多数が間葉系(ASO2陽性85.0%±12.8、ビメンチン陽性63.2%±5.6)で、内皮(FVIII陽性24.9%±8.2)や、平滑筋/ペリサイト(SMA陽性29.2%±2.1)の混入は相対的に低かった。すなわちPLAは間葉系細胞を主体とする比較的均一な集団であることを確認した。

実験③:四系統への分化能(脂肪・骨・軟骨・筋)の検証

系統特異的誘導培地(AM/OM/CM/MM)でPLAを誘導し、組織染色・免疫染色で分化を確認した。結果は、脂肪への分化(Oil Red O陽性の脂肪滴を蓄積)、骨への分化(アルカリホスファターゼ陽性とvon Kossa陽性の石灰化ECMの形成)、軟骨への分化(ミクロマス培養でAlcian Blue陽性・II型コラーゲン陽性の軟骨様結節を形成)、筋細胞への分化(MyoD1・ミオシン重鎖を発現し多核化)を確認し、四系統への分化能を証明した。

【意義/新規性】

それまで中胚葉系の自家幹細胞源は主に骨髄MSCに限られていたところ、脂肪吸引で大量かつ低侵襲、局所麻酔下で得られる細胞集団が、脂肪・骨・軟骨・筋の四系統へ分化することを初めて体系的に示した。骨髄採取の侵襲や採取量の限界を回避できる新しい幹細胞源を提示した。

脂肪組織内に多分化能を備えたMSCを発見(2001年)
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2000年代前半 (MSCの分化能に対する
疑念の蓄積/ISCTの警鐘)

【2000年代前半の主な報告/判明した事実】

  • 移植後のMSCは組織内に少数しか定着しないという追跡研究や、大半が短期間で消失するという報告が出始める。
  • 移植部位での直接的な大量分化では治療効果が説明できないケースが報告される。
  • 生体内のMSCの損傷部位での活性化や分泌因子の重要性が注目され始める。

【2000年代前半のコンセンサス】

投与されたMSCの大量分化が主要メカニズムであるとの単純な構図に疑問符が付き、分泌因子によるパラクライン作用の重要性が提起される。

【代表的な論文】

細胞融合が分化したと誤認される可能性を示唆(2002年) 骨髄由来細胞が他細胞に変化したように見える現象は細胞同士の合体で説明可能
「Bone marrow cells adopt the phenotype of other cells by spontaneous cell fusion」

筆者:Naohiro Terada ほか

研究機関:フロリダ大学(米国)

雑誌名:Nature(10.1038/nature730)

【要旨/結論】

移植した骨髄細胞が筋・肝・神経など想定外の系統に分化する報告が相次いだが、その判定はY染色体などドナー特異的遺伝子の有無に依存しており、それだけではドナー細胞が分化転換したと言い切れないという疑念があった。そこで、マウス骨髄細胞がインターロイキン-3(IL-3)を含む培養下でES細胞と自然に融合することを検証し、さらに融合した骨髄細胞が受け手(ES細胞)の表現型を獲得しうるかを確認した。その結果、詳細な遺伝子解析を実施しない場合、この細胞融合の産物が「脱分化」や「分化転換」と誤認されうると結論づけた。

【実験方法/結果】

実験①:骨髄細胞とES細胞の共培養における自然融合の検出

マウス骨髄細胞を、IL-3を含む培養条件でES細胞と共培養し、両者が自然に融合するかを調べた。結果、薬剤や電気刺激などの人為的融合操作なしに、骨髄細胞とES細胞が自然に融合した。

実験②:融合細胞による受け手表現型の獲得

融合後の細胞が、受け手であるES細胞側の表現型を獲得するかを評価した。結果、融合細胞は受け手の表現型を後発的に獲得したことから、詳細な遺伝学的検証を欠けば「脱分化/分化転換」と取り違えられうることを示した。

【意義/新規性】

移植骨髄細胞の分化転換の報告に対し、in vitroの自然細胞融合という代替メカニズムを実証的に提示した。ドナーの特異的遺伝子マーカーのみを根拠とする分化転換判定の危うさを明確に指摘し、以後の可塑性研究に「融合の可能性を排除する対照実験」の必要性を提起した。

細胞融合が分化したと誤認される可能性を示唆(2002年)
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成体幹細胞の「分化転換」を証明した論文は皆無と総括したレビュー(2004年) 136件の論文を精査し造血幹細胞の心筋などへ分化転換を否定したスタンフォード大学の研究
「Plasticity of Adult Stem Cells」

筆者:Amy J. Wagers ほか

研究機関:スタンフォード大学(米国)

雑誌名:Cell(10.1016/s0092-8674(04)00208-9)

レビュー論文数:136件

【要旨/結論】

成体哺乳類の幹細胞が組織系統の境界を越えて分化(分化転換/可塑性)する可能性に大きな期待が寄せられ、それらが新規で利用しやすく汎用的な再生医療の担い手になると考えられてきた。しかし、こうした予想外の変化は極めて稀で、代替論で説明されうる。本稿では、主にマウスの研究を対象に、骨髄・造血前駆細胞が固形臓器の細胞へ、また非血液組織の幹細胞が造血系へ「分化転換した」とする報告を批判的に評価し、それらを説明しうる機構と、真の分化転換と認めるための基準、そして臨床的意義を総括した。

【実験方法/結果】

①報告の再現性の低さ

骨髄細胞が皮膚・肺・腸・腎・肝・膵・骨格筋・内皮・心筋・神経など多様な非造血組織へ寄与したとの報告が相次いだが、検出頻度は0.1%未満から約20%まで大きくばらつき、多くは大きな組織傷害を要した。一方、同様の系で寄与を検出できなかった報告も相当数あり、再現性に問題がある。

②「可塑性」を説明しうる代替機構

見かけの分化は、必ずしも真の分化転換ではなく、①分化転換、②脱分化、③検体への複数幹細胞の混在、④稀な多能性幹細胞の存在、⑤細胞融合、で説明できる。とくに循環する造血幹細胞(HSC)が全身の非造血組織を汚染する点と、細胞融合が重要である。

③真の分化転換を証明する厳格な基準

分化転換を証明するには、①ドナー特異的+組織特異的マーカーと機能で系統移行を定量的に示す、②クローン解析で複数幹細胞の混在を排除、③核のリプログラミング(元の遺伝子の沈黙と新系統遺伝子の活性化)を示す、④培養を介さず最小限の操作で評価、⑤細胞融合によるマーカー移行を排除し、複数の研究室・複数モデルで独立に再現が必要である。
これらに照らすと、真の分化転換を立証した既発表論文は当時一つも存在しない。

◎成体幹細胞が系統境界を越えて分化するという観察の多くは、細胞融合をはじめとする代替機構で説明できる稀な現象であり、異種起源からの細胞動員が正常で頑健な組織再生機構である可能性は低い。

【意義/新規性】

「成体幹細胞は系統を越えて分化し再生医療に使える」という当時の主張を無批判に受け入れず、報告された分化転換の多くが①ホーミング/可塑性の低頻度、②循環HSCによる組織汚染、③検体の不均一性、④細胞融合によるマーカー移行、で説明可能であることを体系的に整理した。さらに真の分化転換を認定する厳格な基準を初めて明文化し、当時その全てを満たした論文は存在しないと結論づけた。

成体幹細胞の「分化転換」を証明した論文は皆無と総括したレビュー(2004年)
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2000年代後半~2010年代前半 (ホーミング効果の否定:
静脈投与MSCの肺トラップ・
短期生存の証明)

【~2010年代前半の主な報告/判明した事実】

  • 投与後にMSCが分泌するサイトカイン、成長因子、エクソソームによる組織保護や免疫調節が多数報告される。
  • MSCの静脈投与では大半が初回循環時に肺にトラップされるため、目的組織へのホーミングは極めて低効率である。
  • 従って、投与後のMSCの生体内での主要作用は「長期的な分化による組織置換」ではなく「短期間の分泌/免疫調整機能」である可能性が高い。
  • 臨床試験での効果は認められるものの、移植細胞の長期生着による組織置換を示す証拠は極めて乏しい。

【~2010年代前半のコンセンサス】

  • 「投与されたMSCが大量に目的臓器へホーミングして長期に分化して置換する」モデルは否定されるようになった。
  • MSC治療効果は主にパラクライン(分泌因子)と免疫・炎症の修飾によると考えられる方向へ移行。

【代表的な論文】

パラクライン効果を臨床的に示唆した重要な実験論文(2007年) 培養後のMSCを除去した上清液の分泌物が心筋梗塞モデルを顕著に改善
「Reduction of myocardial infarct size by human mesenchymal stem cell conditioned medium」

筆者:Leo Timmersほか

研究機関:ユトレヒト大学医療センター(オランダ)

雑誌名:Stem Cell Research(10.1016/j.scr.2008.02.002)

【要旨/結論】

ヒトMSCのコンディションドメディア(MSCが分泌した因子を含む培養上清)を心筋梗塞モデル(ブタ)に投与すると梗塞サイズが縮小した。
細胞そのものの組織への生着・分化ではなく、MSCの分泌因子が治療効果の中心であるとするパラクライン効果を示唆。

【実験方法/結果】

ヒトMSCを培養フラスコで増殖させ、MSCの分泌物を含む培地を回収し、冠動脈を一時的に塞いで血流を止め、その後、再開通させたブタ(心筋梗塞後に血流が戻る瞬間に起きる損傷を受けたブタ)に投与した。MSCのエキスを静脈内(IV)または冠動脈内(intracoronary)の2経路で投与し、4時間後に効果を評価した実験。

パラクライン効果を臨床的に示唆した重要な実験論文(2007年)
パラクライン効果を臨床的に示唆した重要な実験論文(2007年)

【結果】

①免疫染色(8-hydroxy-2’-deoxyguanosine)

DNAが酸化ダメージを受けると生じる物質(8-OHdG)を抗体で染色し、心筋細胞核のダメージを可視化したところ、投与群では有意に減少。

②アポトーシス・TGF-βシグナルの確認

活性化カスパーゼ3(細胞死の実行役)とphospho-SMAD2(TGF-βシグナルの指標)のタンパク質量を測定。MSCのエキスを投与した群で両者が減少し、細胞死が抑制されていることを確認。

③梗塞サイズの測定

心臓を取り出し、壊死した心筋の面積を計測。MSCのエキスを投与した群では60%の梗塞縮小が確認された。

④心機能の評価

心エコー(超音波)と圧容量ループ(心臓の収縮・拡張力を圧力と容積の両軸で同時測定する方法)で、心臓の収縮機能・拡張機能の両方が改善していることを示した。つまり、DNA酸化のダメージ、死にかけた細胞のシグナル、壊死した面積、そしてリアルタイムの心臓の動き、すべてが改善した。

パラクライン効果を臨床的に示唆した重要な実験論文(2007年)

【意義/新規性】

移植された細胞そのものの定着・分化ではなく、分泌因子が治療効果を媒介する可能性を示し、細胞不使用の「細胞由来因子」治療への関心を高めた。

パラクライン効果を臨床的に示唆した重要な実験論文(2007年)
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静脈投与の肺トラップ(ホーミング低効率)の定量的示唆(2009年) ラットモデルの静脈に注射したヒト骨髄由来MSCのほぼ全量が肺から検出
「Pulmonary passage is a major obstacle for intravenous stem cell delivery: the pulmonary first-pass effect」

筆者:Uwe M Fischerほか

研究機関:テキサス大学(米国)

雑誌名:Stem Cells and Development(10.1089/scd.2008.0253)

【要旨/結論】

静脈投与した間葉系幹細胞が肺の毛細血管で大部分捕捉され、全身の標的組織への移送が制限されることを動物モデルで証明し、ホーミング以前に「物理的に到達しない」問題を示唆した。

【実験方法/結果】

4種類の細胞(①間葉系幹細胞(MSC)、②多能性成体前駆細胞(MAPC)、③骨髄由来単核球(BMMC)、④神経幹細胞(NSC))それぞれに、2色の光る目印を同時に付けた。これは血液サンプルの中から光る細胞を数える目的のものと、摘出した臓器の表面から居場所を撮影するためのもので、1回の実験で2種類のカメラで同時追跡できる仕組み。

実験①:静脈投与した細胞の連続動脈サンプリング

まず、左内頸静脈と総頸動脈にシリコンチューブカテーテルを留置し、入れた細胞が右心臓→肺→心臓→動脈という経路をたどるように設計した。つまり、血管ネットワークの入口(静脈)と出口(動脈)に同時にセンサーを設置することで、入れた数と出てきた数の差から“肺に補足された数”が計算できる仕組み。
この状態で、細胞を静脈投与して、一定間隔で動脈血から出た細胞をカウントした。
結果:200万個移植して、最初の10分間で数千個程度しか動脈で計測されなかった。

ヒト骨髄由来MSCの多分化能を決定的に示した代表的実験論文(1999年)
ヒト骨髄由来MSCの多分化能を決定的に示した代表的実験論文(1999年)
実験②:細胞分布の確認

サンプリングと脱血の後、心臓・肺・脾臓・腎臓・肝臓を摘出し、赤外線イメージングシステム上に置いて標識細胞の存在を確認。
結果:肺だけが全面にわたって均一に発光し、他の臓器はほぼ暗いまま。細胞が肺の毛細血管網に均等に詰まっていることが一枚の画像で確認された。つまり、肺に大半がトラップされていることが示された。また、他のいかなる臓器でも細胞は検出されなかった。つまり、「通過できた細胞すら、目的の臓器には届いていなかった」
(ホーミング効果の否定)。

ヒト骨髄由来MSCの多分化能を決定的に示した代表的実験論文(1999年)
ヒト骨髄由来MSCの多分化能を決定的に示した代表的実験論文(1999年)

【意義/新規性】

静脈投与における「肺トラップ」の定量的証拠を与え、投与経路や投与戦略の再検討を促した重要な動態研究。以降の多くの追跡研究(Eggenhofer 2012、de Witte 2018 等)と合わせて、IV投与MSCの肺滞留→短寿命→間接効果という概念を強固にした。

静脈投与の肺トラップ(ホーミング低効率)の定量的示唆(2009年)
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MSCの分化による治療効果を否定した初期の代表的レビュー(2009年) 94件の論文を精査し、MSCの治療効果本質が分化ではなくパラクラインと結論
「Repair of Tissues by Adult Stem/Progenitor Cells (MSCs): Controversies, Myths, and Changing Paradigms」

筆者:Darwin J Prockopほか

研究機関:テキサスA&Mヘルスサイエンスセンター(米国)

雑誌名:Molecular Therapy(10.1038/mt.2009.62)

レビュー論文数:94件

【要旨/結論】

レビュー対象の2000年前後以降の94件の報告の内訳は以下のとおり。

レビュー対象の2000年前後以降の94件の報告の内訳は以下のとおり。

【結論】

静脈内投与されたMSCのすべてが肺に捕捉されることが決定的に示されている。
MSCは、発見当初は「分化して組織修復する」と考えられていたが、実際には移植細胞の生着や分化は極めて少ない。
現在ではMSCの効果は分化ではなく成長因子やサイトカイン、エクソソームによるパラクラインが主体であり、生着を伴わないことが多い。

【意義/新規性】

2000年以降の論文をテーマ別に網羅的に精査し、「分化転換」を決定的に否定してパラクライン優位への潮流を加速させた。

MSCの分化による治療効果を否定した初期の代表的レビュー(2009年)
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移植MSCの肺捕捉後の短寿命とアポトーシス後の免疫応答を示唆(2012年) 投与MSCの大半が24時間以内にアポトーシスを起こし、残骸が肝臓に移動
「Mesenchymal stem cells are short-lived and do not migrate beyond the lungs after intravenous infusion」

筆者:E Eggenhoferほか

研究機関:レーゲンスブルク大学医療センター(ドイツ)

雑誌名:Frontiers in Immunology(10.3389/fimmu.2012.00297)

【要旨/結論】

MSCは多様な疾患の治療として研究され、動物モデルでは長期の再生・免疫調節効果を示すが、投与後のMSCの行方(fate)は未解明であるため、静注したMSCを臓器から分離・再培養することで、その局在と生存性を調べた。その結果、投与1時間後、Cr-51の大部分は肺に、24時間後は主に肝臓に見られた。組織培養では、生きたドナーMSCは投与後24時間まで肺に存在し、その後は消失した。他の臓器ではいずれの時点でも生きたMSCは見つからず、これらの結果からMSCが静注後に短命であり、生きたMSCは肺を通過しないことを示した。

【実験方法/結果】

赤く光る標識(生死を示す)と放射線を発し続ける放射性クロム(死んでも発光し続ける)を装着したMSCをラットの静脈内に投与した。生きているときは両方が発光し、死滅後は放射線が残り、赤いランプは消える。どちらの信号がどこにあるかを比べることで、「本体の行方」と「残骸の行方」を同時に追跡した。
MSC 50万個をマウスに投与し、5分・1時間・24時間・72時間の4つの時点でマウスを安楽死させ、血液・肺・肝臓・脾臓・腎臓・骨髄を摘出。

【結果】

①投与1時間後

放射線の大半が肺に検出される。

②投与24時間後

肺の放射線が激減し、代わりに肝臓に大量の放射線が出現。
→肺で死んだ細胞の残骸が、血流に乗って肝臓に運ばれマクロファージに処理された

③肝臓・脾臓・腎臓・骨髄

いかなる時点でも生きたMSCは回収できなかった。
→MSCは肺の関門を越えて他臓器に生きたまま到達することはない

移植MSCの肺捕捉後の短寿命とアポトーシス後の免疫応答を示唆(2012年)
移植MSCの肺捕捉後の短寿命とアポトーシス後の免疫応答を示唆(2012年)

【意義/新規性】

移植したMSCの生体内での寿命・分布に関する重要な否定証拠で、組織置換モデルの限界を示し、パラクライン/免疫調節モデルへの概念転換を支持。

移植MSCの肺捕捉後の短寿命とアポトーシス後の免疫応答を示唆(2012年)
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MSCの治療効果の主軸がパラクライン作用であることを体系的に整理(2013年) 分化置換、細胞融合、ミトコンドリア移送と比較したパラクライン作用の優位性の分析
「Paracrine Mechanisms of Mesenchymal Stem Cell-Based Therapy: Current Status and Perspectives」

筆者:Xiaoting Liangほか

研究機関:香港大学(中国)

雑誌名:Cell Transplantation(10.3727/096368913X667709)

レビュー論文数:137件

【要旨/結論】

変性疾患や炎症性疾患の治療に大きな可能性を提供するMSC治療効果の機序として、分化転換・細胞融合・パラクライン・エクソソーム分泌・ミトコンドリア移送を比較検証。そのうち、パラクラインを、急性・慢性いずれの応答でも機能回復に寄与する最も包括的かつ持続的な作用様式と位置づけ、今後の展望を示した。

【結論】

①MSC治療が損傷組織の構造的完全性と機能の回復に寄与することは疑いないが、その基盤的・詳細な生物学的機構はさらなる解明を要する。

②分化転換と細胞融合は頻度が低すぎて意義ある改善を説明しにくい。エクソソーム分泌とミトコンドリア移送では、エクソソームのカプセル化やエネルギー輸送を生み出すのに十分な量と質を備えたスケールアップ可能な細胞ソースを見つけられていない。パラクライン作用(paracrine actions)の課題 MSCから放出されるサイトカインやケモカインの一部(例:TNF-α、IL-6)は有害となり得る。
このように分化転換・細胞融合・パラクライン・エクソソーム分泌・ミトコンドリア移送の各機構にはそれぞれ課題がある。

③パラクライン作用には、TNF-αやIL-6など有害となり得る因子の存在といった限界もあるが、前処理(preconditioning)や遺伝子改変で分泌プロファイルを容易に改善できる。

④MSCの利点は、微小環境に応じて栄養因子を持続的かつ適度な濃度で放出できる点にあり、パラクライン効果は制御可能・管理可能・実現可能な経路として、基礎から臨床への移行を近い将来より現実的にする大きな可能性を持つ。

【意義/新規性】

分化や細胞融合は頻度が低すぎて意義ある改善を説明しにくいとし、パラクライン機構の比較優位性を示した。

MSCの治療効果の主軸がパラクライン作用であることを体系的に整理(2013年)
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MSCに関する「通説」と「事実」を整理した重要なレビュー(2015年) 124件の論文を精査し、通説である「分化」「ホーミング」を否定、パラクライン支持
「Mesenchymal stem cells: myths and reality」

筆者:Adelaida Sarukhanほか

研究機関:INSERM(フランス)

雑誌名:Swiss Medical Weekly(10.4414/smw.2015.14229)

レビュー論文数:124件

【要旨/結論】

MSCは過去20年間、大きな注目を集めてきた結果、MSC生物学と幅広い疾患を治療する能力を扱う研究が前臨床・臨床レベルで指数関数的に増えたが、しばしば紛らわしく相反する結果を伴ってきており、定義の曖昧な細胞調製物や実験モデルの使用が混乱に拍車をかけた。本レビューは、MSC生物学に残る主要な未解決問題を同定し、内因性MSCと治療用MSCに関する「事実」を「神話」から区別することを試みる。

【結論】

① MSCはすべて多能性の幹細胞か

培養されるMSCはすべて多能性の幹細胞であるとされてきたが、実際に多能性をもつ”bona fide”な幹細胞はごく一部にすぎない。また、移植したMSCが標的組織に生着・分化して失われた細胞を置き換えるin vivoでの分化の証拠は乏しい。臨床的改善はむしろMSCが分泌するパラクライン因子(血管新生・抗炎症因子など)によると考えられる。

② MSCは損傷・炎症組織へ遊走して局所で作用するか

MSCは損傷・炎症組織へ遊走して局所で作用するとされてきたが、全身投与MSCの大半は肺に捕捉され早期に死滅し、標的に届く数は極めて少ない。遊走を制限した投与でも遠隔効果が出るため、ホーミングは必須でなく、可溶性因子によるパラクライン/エンドクライン作用で説明できる。

③ MSCは恒常的に免疫抑制的か

MSCは常に免疫抑制機能を発揮するとされているが、MSCは構成的に抑制的なのではなく、炎症環境(IFN-γやTNF-αなどの炎症性サイトカイン)によって免疫調節機能が「活性化」される機構を持つ。そのため、炎症応答の発生後に投与した方が効果的とされる。

④ 同種MSCは免疫に拒絶されないか

MSCは免疫学的に特権的で、誰にでも使える”one-size-fits-all”な製剤になりうると考えられてきたが、MSCは免疫原性が低いものの、免疫特権をもつわけではないことが分かっている。IFN-γでMHCクラスI/IIが上昇し、同種MSCは免疫応答を誘発して拒絶されうる。特に反復投与では免疫記憶が生じるため注意が必要である。

⑤ MSCの治療価値は幹細胞性(再生能)にあるか

MSCの臨床的価値は幹細胞としての分化・再生能に由来するとされてきたが、臨床的価値はむしろ免疫調節活性に由来する。

◎総じて、MSCをめぐる通説の多くは、定義の曖昧な細胞集団と不適切なモデルが生んだ「神話」であった。確かな事実は、真の幹細胞は少数派である点、臨床価値は分化能ではなく免疫調節能にある点、MSCはホーミングせずともパラクライン・エンドクラインに作用する点、の3点に集約される。

【意義/新規性】

MSC分野に蓄積した「神話」を内因性/外因性に分け、4つの鋭い問い(同一起源か/幹細胞か/ホーミングは必須か/恒常的に免疫調節性か)の形で正面から問い直し、in vitroの所見をin vivoの実態と取り違えてきた混乱を腑分けした。特に「MSCの臨床的価値は幹細胞性ではなく免疫調節能にある」「免疫調節はデフォルトではなく炎症で活性化される」「ホーミングは必須でなくエンドクラインに効く」という3点を明確に打ち出した。

MSCに関する「通説」と「事実」を整理した重要なレビュー(2015年)
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2010年代半ば~後半 (MSCのアポトーシスと
免疫系による
貪食の重要性が浸透)

【〜2010年代後半の主な報告・判明した事実】

  • 移植MSCの寿命が短く、多くはマクロファージや免疫系細胞により除去されること。
  • 肺でアポトーシスを起こしたMSCを貪食した免疫系細胞(単球・マクロファージ)の性質が変化することで、制御性T細胞の誘導を介して免疫寛容や抗炎症などの治療効果の一因となるケースがある。
  • MSC由来エクソソーム(小胞)が免疫調節・組織保護を担う証拠が増加する。

【 〜2010年代後半のコンセンサス】

  • MSCの主要な生体内での機能は「分化による組織置換」ではなく「免疫調節・炎症修および分泌因子を介したパラクライン効果」が中心である、との見解が強固になる。
  • 静脈投与で期待されていたホーミングは「極めて低効率であり、多くが肺にトラップされる」ことが広く受け入れられる。

【代表的な論文】

MSCのホーミング能力が極めて低い原因を分析した重要レビュー(2016年) 140件の論文を整理し、MSCの投与経路やホーミング受容体の低発現などを示唆
「Homing and migration of mesenchymal stromal cells: How to improve the efficacy of cell therapy?」

筆者:Ann De Beckerほか

研究機関:ブリュッセル大学病院(ベルギー)

雑誌名:World Journal of Stem Cells(10.4252/wjsc.v8.i3.73)

レビュー論文数:140件 

【要旨/結論】

MSCは多様な臨床応用において研究中で、多くの研究で全身投与される。これには標的組織への効率的なホーミングと遊走が必要だが、MSCのホーミング機構は完全には解明されていない。さらにin vivoのホーミング・遊走はあまり効率的でないため、ホーミングを改善する種々の方法が検討されてきた。本稿では、MSCの骨髄ホーミングに関する現在の知見と、これら幹細胞のホーミング能を高め得る種々の戦略をレビューした。

【結論】

①投与経路について

全身投与(静脈内IV・動脈内IA)と局所投与(冠動脈内IC・組織内直接注入)がある。IVは低侵襲・反復容易で最も広く使われるが、細胞が肺で捕捉される。IAは組織特異的ホーミングを高め得るが、大きなMSCの微小血管捕捉による微小血栓のリスクがある。

②ホーミング動態と影響因子

投与直後にMSCは肺で捕捉され、その後肺からクリアされ他組織へ分布。ホーミングは若い個体・照射後で増加し、継代数増加で減少。MSCは組織因子(tissue factor)を発現し前凝固活性をもつため、IC注入で冠血流予備能低下が起こり、ヘパリン併用で改善する。

◎MSCは多様な治療応用に使える興味深いエフェクター細胞であり、全身投与がしばしば好ましい送達経路である。しかしこの方法は、十分な数のMSCが標的組織へ遊走・ホーミングすることを要するが、MSCはホーミング受容体を多く発現せず、これが遊走能を損ない治療効果を妨げる。

【意義/新規性】

MSCの全身投与では標的到達・残留する細胞がわずかで、ホーミングは非効率という問題を、①ホーミング分子の低発現、②培養拡大中の発現喪失、③MSCの不均一性・培養プロトコルの差として整理し、骨髄ホーミングに焦点を当てて機構と改善戦略を総括した。

パラクライン効果を臨床的に示唆した重要な実験論文(2007年)
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MSCのアポトーシスを介した免疫調節作用の機構的証拠(2017年) MSC アポトーシスの重要性及び患者側の細胞傷害活性が治療効果を左右
「Apoptosis in mesenchymal stromal cells induces in vivo recipient-mediated immunomodulation」

筆者:Antonio Galleuほか

研究機関:キングス・カレッジ・ロンドン(イギリス)

雑誌名:Science Translational Medicine(10.1126/scitranslmed.aam7828)

【要旨/結論】

MSCは、投与後にほぼ全量が肺に捕捉され、短期間に消滅する事実と、免疫調節効果の持続性が矛盾するため、MSCのアポトーシス後の作用機序の解明を目指した。
その結果、静脈に投与された治療用MSCが単球・単球由来マクロファージに貪食されることで、宿主の単球が免疫抑制性へと「再教育」されることを実証し、貪食が免疫調節のトリガーであることを示した。

【実験方法/結果】

実験①:マウスGvHDモデルでのMSCアポトーシス追跡

GvHDマウスにMSCを投与し、生体内での運命を追跡した。その結果、投与されたMSCは速やかにアポトーシスを引き起こした。いっぽうで、宿主の細胞傷害性細胞を枯渇・欠損させるとMSCのアポトーシスが起きなかったことから、「宿主のキラー細胞がMSCを殺す工程」が免疫抑制の前提条件であることを突き止めた。

実験②:人工アポトーシスMSC(apoMSC)による代替

抗FAS+グランザイムBによりあらかじめアポトーシス化させたMSC(apoMSC)を、細胞傷害性細胞が存在しないモデルのラットに投与した。その結果、宿主が自前でMSCを殺せなくても、apoMSCを入れればGvHDの免疫抑制効果が成立した。効果の本質が死んだMSC側にあることを示した。

実験③:患者コホートでの臨床的裏づけ

ステロイド抵抗性 grade 3〜4 GvHD患者16名に、投与24時間以内に採血した免疫細胞集団(PBMC)で、MSCを殺せるかを測定した。ROC解析で14.85%のカットオフで設定し、細胞傷害活性が高い5名は効果(臨床応答)を示し、低いグループは効果(非応答者)が見られなかった。その細胞傷害活性には約4倍の差があった。効果を決めるのは細胞数ではなく細胞傷害活性だと示した。

MSCのアポトーシスを介した免疫調節作用の機構的証拠(2017年)

【意義/新規性】

単球が「MSC治療効果の中継役・運搬役」であることを初めて具体的に提示し、MSCの免疫調節効果は生きた細胞そのものではなく、MSCを貪食した単球を介した全身の免疫応答という新しい回路を解明した。

MSCのアポトーシスを介した免疫調節作用の機構的証拠(2017年)
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アポトーシスMSCを貪食した単球による免疫再教育を実証(2018年) 免疫調節の中心機序がMSCを貪食した単球を介した免疫寛容であることを強めた重要な研究
「Immunomodulation By Therapeutic Mesenchymal Stromal Cells (MSC) Is Triggered Through Phagocytosis of MSC By Monocytic Cells」

筆者:Samantha F. H. de Witteほか

研究機関:エラスムス医療センター(オランダ)

雑誌名:Stem Cells(10.1002/stem.2779)

【要旨/結論】

MSCは免疫抑制的であるが、投与後ほぼ全量が肺に捕捉されて短期間で検出されなくなるという「効くのに消える矛盾」が存在する。そこで投与後のMSCの運命を追った。その結果、静注されたMSCは宿主の細胞傷害性細胞(CD8⁺T細胞・NK細胞)によってパーフォリン依存的にアポトーシスへ追い込まれたことが証明され、さらにヒトGvHD患者でもMSCを殺す力が強い患者だけが治療に応答し、弱い患者は無効という対応関係も確認した。MSCが「殺されること自体」が免疫抑制を起動する必須の工程であることを示した。

【実験方法/結果】

実験①:トレーサー実験

Qtracker とHoechstと呼ばれる2種類の蛍光色素を装備したMSC(ヒト臍帯由来)をマウスに静脈内投与し、臓器・血液内分布を追跡した。
24時間後にMSCの大多数は死亡し、その残骸は肺・肝臓のマクロファージ内で検出された。また、蛍光色素を含有する単球が全身の血液中から多数検出され、「残骸が肝臓へ運ばれて最終処理される構図」と「単球がMSCを貪食して全身を移動している状態」を突き止めた。

アポトーシスMSCを貪食した単球による免疫再教育を実証(2018年)
アポトーシスMSCを貪食した単球による免疫再教育を実証(2018年)
実験②:単球による免疫の再教育の確認

ヒト単球とMSCをin Vitroで混合して貪食を再現し、貪食後の細胞表面マーカーを分析し、さらにMSCを取り込んだ単球が制御性T細胞を誘導するか評価した。

結果は、MSCを貪食した単球は、炎症促進性(CD14⁺⁺/CD16⁻)から非古典的・免疫調節性(CD14⁺⁺/CD16⁺/CD206⁺)へと変化し、制御性T細胞の誘導も確認された。
この実験で、炎症を煽る係だった単球が、MSCの遺体を取り込むことで免疫を抑制する働きを持つことが確認された。

【意義/新規性】

「生きたMSCを入れて分泌で効くのを待つ」という従来モデル(secretome説)を覆し、MSC治療の本体である「宿主の細胞傷害性細胞に殺される→貪食される」という宿主側の処理過程を示した。臨床的には、「MSCを殺せるか」を投与前PBMCで測る予測バイオマーカー(患者層別化)と、宿主の殺傷工程を省ける人工アポトーシスMSC(apoMSC)製剤という二つの戦略を提示し、「最良のMSC集団を選ぶ」という発想から「最も効きそうな患者を選ぶ」という発想への転換を促した。

アポトーシスMSCを貪食した単球による免疫再教育を実証(2018年)
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エクソソームへの潮流を示す象徴的なレビュー(2017年) 100件の論文を整理し、MSC由来エクソソームによるセルフリー治療の新パラダイムを提示
「Concise Review: MSC-Derived Exosomes for Cell-Free Therapy」

筆者:Donald G. Phinneyほか

研究機関:スクリプス研究所(米国)

雑誌名:STEM CELLS(10.1002/stem.2575)

レビュー論文数:100件

【要旨/結論】

MSC移植は多数の臨床試験で評価が進むが、その作用機序は長期間不明だった。近年、MSCが放出する細胞外小胞(EV=エクソソーム+微小胞)が、細胞間コミュニケーション・シグナル伝達を担い、損傷・感染・疾患への組織応答を左右することがわかってきた。これらEVがパラクラインの仲介役として組織修復に働き、親MSCの治療効果を大部分再現するという証拠を整理する。

【結論】

①パラダイムの変遷

MSCは当初、骨形成幹/前駆細胞として「直接の細胞置換」で組織を補修すると期待された。しかし生体に投与しても損傷部に生着するMSCはごく少数で、静脈内投与では大半が肺の毛細血管に捕捉され除去されることが齧歯類・イヌで確認された。それでも治療効果が認められることから、「MSCは細胞置換ではなくパラクライン因子と宿主細胞の刺激を介して効く」という修正説が採られた。

②活性成分=エクソソームの同定

Timmersら(2007)が、ヒトESC由来MSCの馴化培地が心筋梗塞サイズを縮小させ、その活性成分が50–200 nm画分にあることをサイズ分画で示した。続くLaiら(2010)が、流体力学半径55–65 nmの均一なエクソソーム標品が、馴化培地の10%相当のタンパク量で梗塞サイズを縮小させたと報告した。

③幅広い疾患モデルでの治療効果の再現

MSCエクソソームは、心・腎保護、心筋梗塞・脳卒中・周産期低酸素虚血性脳障害・後肢虚血、肝線維化、壊死性腸炎、肺高血圧・珪肺・内毒素性肺水腫、皮膚創傷・血管新生、筋再生、神経保護など、かつてMSC細胞で示された極めて広範な治療効果を大部分再現した。免疫的にもT細胞増殖・IFN-γ分泌を抑制するなどの活性をもつことが確認された。

④すべてのMSCエクソソームが同等ではない

由来組織でエクソソームの性質が異なる。脂肪由来MSCは骨髄由来より最大4倍高いneprilysin活性をもつ。骨髄/臍帯由来エクソソームはグリオーマ細胞の増殖を抑制するが、脂肪由来は逆に増殖を促進するなど、効果が分かれる。

◎細胞を使わない再生医療としてMSCエクソソームを使うには、細胞療法と同様に「品質・再現性・効力(potency)」の管理が必要である。丁寧な産生管理ができれば、リスクを抑えた新しい治療パラダイムになりうる。

【意義/新規性】

MSC研究の「パラクラインへのパラダイムシフト」を、その分泌産物であるエクソソーム/微小胞という具体的実体に落とし込んで体系化した。細胞を使わない(cell-free)治療の利点と、決定的な障壁(小さな積荷ゆえの産生量問題、内容物の不均一性、効力アッセイ・標準化された製造・保存法の欠如)を論じた。

エクソソームへの潮流を示す象徴的なレビュー(2017年)
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2020年代~現在 (細胞の
プレコンディショニング
など臨床効果向上策の模索)

【2020年代~の主な報告/判明した事実】

  • MSCの生体内での長期的な分化による組織置換は極めて稀で、主要作用は分泌物やアポトーシスを介した間接的効果である。
  • 細胞そのものではなくMSC由来エクソソームやアポトーシス細胞の断片が主要な作用物質である可能性及びこれらが単球/マクロファージを再教育して抗炎症性フェノタイプ(M2様)を誘導する証拠が増える。
  • 静脈投与では大半が肺に捕捉され、目的臓器への効率的ホーミングは極めて限定的。
  • 投与後のMSCの生着・生存性や免疫調節・パラクライン機能を高め治療効果を向上させる目的で、「プレコンディショニング」(培養時の事前学習)の研究が盛んになる。
    代表的方法は低酸素、炎症性サイトカイン処理、成長因子添加、薬理処理や3Dスフェロイド化、機械刺激などで、条件により効果が異なる。

【現時点のコンセンサス】

  • MSCの生体内での「主機能」は分化置換ではなく、免疫調節およびパラクラインを介した組織保護・修復支援である、という点がコンセンサスとなる。
  • 静脈投与によるホーミング効果は極めて低効率で、大半が肺にトラップされる事実が広く認識されている。
  • MSCの免疫調整機能は単一の経路ではなく、多層的(分泌因子、エクソソーム、アポトーシス後の患者側の宿主免疫再教育、細胞間接触など)であり、治療効果は投与条件や患者側の応答に大きく依存する、という理解が定着している。

【代表的な論文】

177件の論文と1050例の臨床試験を分析したハーバード大学の共同研究(2020年) 製造・投与・患者の3カテゴリーに分けて臨床的課題を整理し改善策を示したレビュー
「Shattering barriers toward clinically meaningful MSC therapies」

筆者:Oren Levyほか

研究機関:ハーバード大学(米国)

雑誌名:Science Advances(10.1126/sciadv.aba6884)

レビュー論文数:177件

【要旨/結論】

神経変性・心疾患・肛門周囲瘻・GvHD・COVID-19・がんなど、想像しうるほぼあらゆる適応でMSCが臨床試験に投入されているが、臨床段階のMSC治療の多くは主要有効性評価項目を満たせていない。ヒトに投与したMSCの本来の治療機能は前臨床ほど頑健ではなく、細胞治療の橋渡しは不均一性を生む無数の段階によって損なわれる。そこで、MSC治療の主要な臨床課題とその詳細、そしてMSC固有の生物学を活かして課題を克服し、より強力で汎用的な治療を実現するバイオエンジニアリング的手法について論じる。

【結論】

①製造に起因する課題と解決方法

MSCは構造と効力を狭く定義できる化学薬品と違い、動的な「生きた治療薬」である。そのため、生きたMSCは本質的に不均一な細胞集団で、ドナー特性・由来組織・単離法・培養法で治療遺伝子/タンパク発現が変わる。また、凍結融解後のMSCは、凍結でアクチン細胞骨格が破壊され構造的完全性が損なわれ、点滴後の生存期間を大きく縮める要因となる。
解決策として、神経栄養因子(GDNF/BDNF/VEGF/HGF)を分泌させて再生能を増強する方法、薬剤(budesonide)によってIDO活性を4倍に持続させる方法、抗炎症サイトカインや増殖因子を過剰発現させて先天的な機能を増強、または非天然の治療タンパクを付与する方法、MSCの腫瘍ホーミング能を使って抗がん薬を運ぶ方法などが挙げられる。

②投与に起因する課題

局所投与:移植後数時間で投与細胞の5%未満しか注入部位に残らない例がある。MI患者の冠動脈内投与では、約1時間後に放射標識細胞の2.1%しか残らず、残りは主に肝臓脾臓に存在することが確認されている。
全身投与:静注MSCは即座に肺毛細血管に集積し、24時間以内に単球に貪食される。臍帯由来MSC静注で2例とも血栓症を起こし緊急治療を要した報告もある。

解決策として、免疫攻撃から遮蔽する方法(ハイドロゲル/マイクロゲル封入で滞留時間を延長)、ホーミングを強化して標的部位への到達を増やす方法、磁気誘導による外部磁場を使用して狙った組織へ集める方法、加えて血栓対策として低用量ヘパリン併用や組織因子TFの発現低減などが挙げられる。

③患者に起因する課題

宿主の細胞傷害応答が治療成績と相関する。重症ステロイド抵抗性GvHD患者16名で、臨床的レスポンダーはMSCへのex vivo細胞傷害性が非レスポンダーの約4倍高かった。つまり、強い細胞傷害応答ほど治療効果が高い。
解決方法としてMSCへの細胞傷害応答や疾患ステージで効きやすい患者を選ぶ患者層別化や、宿主プライミング(ビタミンCで移植細胞の酸化ストレス障害を防ぐ、血管拡張薬で肺集積を15%減など)によって治療効果を引き上げる方法が挙げられる。

◎天然のMSCを「そのまま入れて効くことを期待する発想」では臨床は成功しないため、狙う標的をあらかじめ定め、その標的に効くよう作用機序を生体工学で設計し直すことが前臨床から臨床への壁を破る鍵となる。

【意義/新規性】

MSC治療の臨床的失敗を、個別事例の羅列ではなく「製造・投与・宿主」という3層の不均一性フレームに体系化し、各層に対応するバイオエンジニアリング解を一望できる地図として提示した。とりわけ、Galleu/de Witteの「アポトーシス・貪食を介した免疫再教育」を宿主層の中心機序として組み込み、「宿主の強い細胞傷害応答こそが効く」という逆説を臨床指標(患者層別化)に転用しうると示した。

177件の論文と1050例の臨床試験を分析したハーバード大学の共同研究(2020年)
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免疫抑制におけるMSCのアポトーシス/貪食の必要性を示した重要な実験論文(2021年) 複数の疾患モデルで、投与MSCのアポトーシスが治療効果の発現に必須であることを証明
「Mesenchymal stromal cell apoptosis is required for their therapeutic function」

筆者:Swee Heng Milon Pang ほか

研究機関:モナッシュ大学(オーストラリア)

雑誌名:Nature Communications(10.1038/s41467-021-26834-3)

【要旨/結論】

静注したMSCの広範な免疫抑制効果は、生きたMSCの本来的な性質によるものなのか、それとも死にゆくMSC(アポトーシス)への宿主応答のみによって媒介されるのかが不明であった。そこで、静注後のMSCが、宿主の細胞傷害細胞やアロ反応細胞が存在しなくても肺でアポトーシスを起こすかを検証した。その結果、本研究は静注後のMSCが宿主の細胞傷害細胞やアロ反応細胞がいなくても肺でアポトーシスを起こすことを示した。

【実験方法/結果】

実験①:静注MSCの肺内での動態をフローサイトメトリーで追跡

Cell Trace Violet(CTV)で標識したヒト骨髄由来MSCをマウスに静注し、フローサイトメトリーで経時追跡した。その結果、MSC本体(CD45⁻・CD73⁺・CTVhi)は、投与1時間以内にアポトーシス(高度の活性化カスパーゼ3の検出)を示した。また、CTVhi分画の割合は経時的に減少し、8時間ではごく僅かとなった。臍帯・脂肪由来MSCでも同じアポトーシスが再現された。

実験②:アポトーシス状態のMSCの免疫抑制能を喘息モデルで評価

タウロスポリン(STS-MSC)またはBH3模倣薬3剤(BH3-MSC)を併用し、アポトーシスを誘導したMSCをOVA感作マウスに静注した。その結果、好酸球浸潤・OVA特異的IL-5/IL-13・気道過敏性(Rl, Cdyn)を未処理MSCと同程度に抑制したことから、MSCの免疫抑制にMSCが生存している必要がないことを示した。

実験③:BAK/BAX欠損MSC(BKX-MSC)でアポトーシスを止め、
治療効果への影響を検証

BAK/BAXを欠損させ、BH3模倣薬で繰り返し処理をすることで、約98%生存のアポトーシス抵抗性MSC(BKX-MSC)を樹立した。このBKX/-MSCを投与した結果、OVA喘息ではT細胞抑制・IL-5/IL-13低下・気道過敏性改善が得られず、EAE(多発性硬化症モデル)でも発症遅延はあるものの最終的に未治療と同等に重症化し、炎症性(Ly6Chi)単球も減らせなかったことから、アポトーシスは治療効果に必須であることを示した。

実験④:MSCを貪食する肺内細胞の同定と貪食の確認

広範な骨髄系マーカーパネルでCTV⁺CD45⁺細胞を経時解析した。その結果、最終段階の肺胞マクロファージ(AM)の取り込みは初期8時間を通じ5〜10%で一定だったことを示し、貪食した好中球・単球・AMはMHCクラスIIを上昇させた。また、肺胞マクロファージを枯渇させるとMSCの残存時間が延長したことから、MSCは肺の貪食細胞群に取り込まれ、肺胞マクロファージが清掃に重要な常在貪食細胞として表現型を変化させること(免疫の再教育)を確認した。

【意義/新規性】

「MSCは生着も生存もしないのに、なぜ効くのか?」という長年の問いに、遺伝学的loss-of-function(BAK/BAX欠損)という決定的証拠で答え、作用機序のパラダイムを「生きた細胞の分泌物(secretome)」から「死にゆく細胞への宿主応答」へと明確に転換させた。

免疫抑制におけるMSCのアポトーシス/貪食の必要性を示した重要な実験論文(2021年)
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培養MSCは性質が異なる5種類の細胞で構成される不均一な細胞集団(2022年) 61,296個のMSCの解析により、自己複製能型、免疫調節特化型などの混在を確認
「Single-cell Transcriptomic Analysis Reveals the Cellular Heterogeneity of Mesenchymal Stem Cells」

筆者:Chen Zhang ほか

研究機関:中国科学院(中国)

雑誌名:Genomics Proteomics Bioinformatics(10.1016/j.gpb.2022.01.005)

【要旨/結論】

体外(ex vivo)で増殖させた間葉系幹細胞(MSC)は、増殖能・多分化能・免疫調節能の異なる細胞の不均一な集団であることが知られているが、その正確な特徴は不明だった。本研究は、骨髄(BM)とワルトンゼリー(WJ)由来のMSC計61,296細胞を1細胞RNA-seqで解析し、5つの異なる亜集団を同定した。発生軌跡をたどると、幹細胞様の活発に増殖する細胞(APC)→多能性前駆細胞(MPC)→2方向(単能性の前脂肪細胞、または二能性の前軟骨・骨芽細胞→単能性の前軟骨細胞)への分岐が示された。

【実験方法/結果】

実験①:UMAPクラスタリングと5亜集団の機能注釈

6人のドナー検体をscRNA-seqにかけ、厳格なフィルタ後、61,296細胞を取得した。次に細胞周期効果を回帰除去した上でscRNA-seqによる分類(UMAPクラスタリング)を行った結果、下記の6つのクラスターを同定し、MSCが連続的発生階層をもつ不均一集団であることを転写レベルで実証した。

Cluster 1

幹細胞様APC(増殖と自己複製を担う幹細胞に見える細胞群)

Cluster 2

三能性NPC(骨・軟骨・脂肪の三系統遺伝子を共発現した細胞群)

Cluster 3

単能性前脂肪細胞(脂肪細胞への分化を制御する遺伝子を発現した細胞群)

Cluster 4

二能性前軟骨・骨芽細胞(軟骨細胞・骨芽細胞の両方に分化できる細胞群)

Cluster 5

免疫調節性前軟骨細胞(軟骨形成と免疫調節を担う細胞群)

Cluster 6

前平滑筋細胞(平滑筋の収縮に必要な遺伝子を発現した細胞群)

実験②:APC(Cluster1)の幹性検証

APC(NG2/CSPG4・CD146/MCAM・NESを極めて高く発現)を細胞の公開データ(NG2⁺細動脈周囲細胞・LEPR⁺血管洞周囲細胞・PXM(傍軸中胚葉))とPearson相関で比較したところ、APCのみがin vivoのNG2⁺細動脈周囲細胞およびPXM細胞に酷似していることを確認した。また、自己複製・分化抑制・細胞周期制御に関わる遺伝子群を共発現しており、APCは分化軌道の頂点に位置し、長期培養下でも維持される幹細胞様集団であることをと示した。

実験③:前軟骨細胞(Cluster5)の免疫調節能の機能検証

Cluster 5は軟骨形成遺伝子に加えて、炎症惹起性(補体・免疫原性・骨髄系白血球活性化)と抗炎症性(T・B・NK・樹状細胞の増殖/分化/活性化の抑制)の両機能遺伝子を保有し、その多くが細胞外小胞に局在していることを確認した。そして、最も特異的なマーカーとしてCD106(VCAM1)を同定し、CD106で純化したCluster 5をT細胞と共培養した。その結果、CD106⁺MSCはCD106⁻細胞より有意にT細胞増殖を抑制し、免疫調節能がMSC全体ではなく特定亜集団(CD106⁺前軟骨細胞)に担われることを証明した。

実験④:培養MSC vs 初代MSCの統合解析

培養MSCと初代MSCを公開scRNA-seq(初代UCMSC・初代BMMSC・培養子宮内膜MSC)と統合解析した。培養MSCは組織を問わず同様の6クラスター組成を共有し、MSCマーカー(CD73/CD90/CD44)の発現が上昇した。WJ由来のMSCは増殖性APC(Cluster 1)が多く(17.3% vs 5%)、BM由来のMSCは免疫調節性前軟骨細胞・CD106⁺細胞が優勢だった。この結果から、培養が組成・マーカー発現・ニッチ機能を変化させること、組織差(WJ vs BM)が亜集団比率の違いに影響することを示した。

【意義/新規性】

MSCの「不均一性」を、漠然とした概念から「5つの機能的に定義された亜集団とその発生階層」へと初めて転写レベルで構造化した。特に、自己複製を担う幹細胞様APCと、免疫調節を担う前軟骨細胞(CD106⁺)という臨床応用上最も重要な2機能をそれぞれ別個の亜集団に帰属させ、純化可能なマーカーまで提示した。

培養MSCは性質が異なる5種類の細胞で構成される不均一な細胞集団(2022年)
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MSCの治療効率を高めるための細胞の「前処理法」を整理したレビュー(2023年) 臓器別に低酸素培養、化学物質・サイトカイン曝露、3次元球状培養、遺伝子改変を考察
「Recent advances in pre-conditioned mesenchymal stem/stromal cell (MSCs) therapy in organ failure; a comprehensive review of preclinical studies」

筆者:Mohammad Saeed Kahriziほか

研究機関:アルボルズ医科大学(イラン)

雑誌名:Stem Cell Research & Therapy(DOI: 10.1186/s13287-023-03374-9)

レビュー論文数:205件

【要旨/結論】

MSCは自己複製と多分化能で再生医療に有望で、免疫調節や血管新生に関わる多彩な因子を分泌する。しかし、採取・長期培養後に生物学的性能を失いやすく、移植・標的組織への遊走後は、細胞と基質の適切な張力構造(tensegrity)を欠くため、死シグナルを伴う過酷な環境に直面する。よってMSCの前処理(pre-conditioning)がin vivoでの性能を高め移植効率を上げる手段として強く推奨される。低酸素・炎症性刺激・その他の因子による ex vivo 前処理は、生存・増殖・遊走・エクソソーム分泌・血管新生能・抗炎症能を高めうることから、腎臓・心臓・肺・肝臓・卵巣を中心に、臓器不全でMSCの治療効率を高める戦略としての前処理法を概観する。

【結論】

①前処理が必要な理由と前処理の主な手段

投与後、MSCは虚血や炎症、酸化ストレス、機械的ストレスの過酷な微小環境で生存率が低下する。さらにホーミングが非効率で、全身投与後に標的に届く細胞はごく一部であることがわかっている。これがMSC治療の決定的なボトルネックである。
これを解決する手段として、増殖・分泌・遊走・血管新生・抗炎症の各能を高める低酸素、薬理・化学物質や栄養因子/サイトカインへの曝露、物理的因子、遺伝子改変の4系統の前処理が存在する。

②各前処理の機序

低酸素(Hypoxia)処理は、酸素濃度を低く保った環境でMSCを培養し、HIF-1αを活性化させる手法である。生存・血管新生・遊走・免疫調節の70超の遺伝子を上方制御すると報告されている。
薬理・化学物質/栄養因子・サイトカインを介した前処理では、IFN-γ・IL-1・アンジオテンシンII・メラトニン・酪酸ナトリウム(NaB)・CHBP(カルボキシル末端型過分岐ポリエステル)がターゲットとなる。それぞれNK細胞からのMSC保護やVEGFの分泌恒常・肝分化促進など特定の能力を引き出す。
物理的因子としては、3次元球状培養(スフェロイド)、低強度パルス超音波(LIPUS)などが挙げられる。3次元培養はTNF-α・IL-6といった炎症性サイトカインを低下させ、逆にIL-10を高めて免疫抑制能を強化する作用がある。
遺伝子改変(Gene modification)は、HO-1・VEGF・HIF-1・Gas6・ADM・miR-21など特定の遺伝子を過剰発現させ、臓器別の弱点(肺の酸化障害・心の線維化・肝のホーミング不足など)に的を絞って対処する。効果は最も直接的だが、安全性確認が必須となる。

③臓器別の知見

肺不全では、HO-1過剰発現でLPS誘発急性肺障害を軽減した。また、肺炎症低減、IL-18プライミングUC-MSCでウイルス性肺炎の改善なども確認した。心不全では、低酸素でhUC-MSCの心筋様分化が向上し、Gas6/HIF-1/VEGF/ADM過剰発現で生存・血管新生・抗線維化を介した心機能改善が報告されている。腎不全では、低酸素前処理でBUN・クレアチニン改善、さらにメラトニン前処理で生存・血管新生の向上効果が確認されている。さらに肝不全では、IL-1やCXCR4過剰発現でホーミングが改善、NaBで肝分化が促された。遺伝子改変処理(VEGF165・HNF4α・IL-35改変)による肝障害軽減・再生促進も報告されている。

◎天然のMSCは宿主組織内で機能不全に陥りやすい。そこで、前処理という多技術アプローチを適用することで、生存・遊走・免疫調節・分化・血管新生の各能を移植後に底上げできる。

【意義/新規性】

「投与後MSCの低生存・低ホーミング」というMSC治療最大のボトルネックへの対策を投与前の処理という枠組みに限定し、低酸素、薬剤・サイトカイン、物理的因子、遺伝子改変として整理した。さらにその効果を腎臓・心臓・肺・肝臓・卵巣の臓器不全別に提示した。

MSCの治療効率を高めるための細胞の「前処理法」を整理したレビュー(2023年)
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MSC本体とMSC由来細胞外小胞(エクソソーム)の機能の網羅的比較(2023年) 357件の論文を精査し、MSCの分化能とEVsの再現性について系統別に比較した総説
「Mesenchymal Stem Cells and Their Exocytotic Vesicles」

筆者:Hao Caiほか

研究機関:上海中医薬大学(中国)

雑誌名:International Journal of Molecular Sciences(10.3390/ijms24032085)

レビュー論文数:357件

【要旨/結論】

多能性幹細胞であるMSCは、骨形成能・軟骨分化能・脂肪分化能から、整形外科疾患・老年病・代謝疾患・運動機能の分野で注目されており、抗炎症・抗線維化・血管新生促進・神経新生・免疫調節、および分泌する増殖因子・プロテアーゼ・ホルモン・サイトカイン・ケモカインは、肝腎疾患や心脳血管疾患で広く研究されている。近年、MSCの細胞外小胞(EV)が上記すべての側面でMSC移植と類似の機能をもつことが多くの研究で示されたため、本総説はMSCとその分泌小胞に関する近年の研究進展を概観する。

【結論】

① MSCは組織の由来ごとに分化能・マーカー・臨床効果が異なる

骨髄・脂肪・脳・肺・膵・滑膜・末梢血など多様な組織から得られるMSCは、大半がCD44/CD73/CD90/CD105を発現する。マーカーの違いは胚系・組織由来・機能特性の違いを意味し、由来ごとに用途が異なる。

② MSCは肝・腎・膵で栄養因子・抗線維化因子を分泌し、組織を保護する

MSCはHGF・IGF-1・VEGF・FGF2・EGF・PDGF等の栄養因子を放出し、TGF-β1活性阻害・酸化ストレス抑制・ECMリモデリングを介して抗線維化・細胞保護効果を発揮する。腎では炎症性細胞浸潤やRAAS亢進を抑え、肝では肝星細胞活性化を抑制する。

③ 心血管系ではMSCは血管新生・抗酸化・免疫調節で心機能を保護する

MSCは梗塞サイズを抑え、VEGF・PDGF・angiopoietin・HGFやmiR-21等で血管新生を促す。post-infarctでM1マクロファージを減らしM2へ極性化させ、TGF-β/IL-10/HGF/PGE2/IDOを介して炎症を抑制する。

④ 神経系ではMSCは抗アポトーシス・神経新生・血液脳関門保護で
神経損傷を修復する

MSCはER stress・IL-6/STAT3・Cx43/Nrf2を介して、中枢神経系に属するアストロサイトのアポトーシスを抑制し、NGF・BDNF等で神経突起伸長・神経新生・シナプス伝達を促す。また、ミクログリアのM2極性化、ANXA1/FPR軸を介した血液脳関門の安定化、MMP-9抑制によって神経保護を発揮する。

⑤ MSCは主要免疫細胞すべてを調節する

MSCはマクロファージをM1→M2へ極性化し、B細胞増殖・分化を抑制する。また、樹状細胞の成熟・抗原提示を抑え、T細胞をG0/G1に留めてTreg(CD4⁺CD25⁺)を誘導し、NK細胞の細胞傷害・増殖・IFN-γ産生も抑制する。

⑥ MSC由来EV(Exos/EVs)はMSCと同等の機能をもつ

MSCのマイクロベシクル(Exos/EVs)は長い半減期・低免疫原性・高い透過性・生体適合性をもち、骨・肝腎・心血管・神経・免疫の各系統でMSC本体と類似の組織再生・免疫調節・抗炎症効果を発揮する。

◎MSCの治療効果は分化そのものより、分泌する栄養因子・サイトカイン・miRNAを介したパラクライン作用と免疫調節が主体であり、その担い手は細胞外小胞(Exos/EVs)に集約されつつある。生きたMSCを丸ごと投与せずとも、その分泌小胞だけで全系統にわたり類似の効果が得られることを示した。

【意義/新規性】

MSC本体とそのEV(Exos/EVs)の作用を、骨・脂肪・肝腎膵・心血管・神経・免疫という全系統にわたって、シグナル経路・転写因子・miRNA単位で網羅的に一覧化した。特に「MSC-EVsがほぼ全領域でMSC本体と同等の効果をもつ」ことを横断的に示し、cell-free(細胞を使わない)治療の根拠を体系づけた。

MSC本体とMSC由来細胞外小胞(エクソソーム)の機能の網羅的比較(2023年)
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237件の論文を整理し臨床試験の成否のポイントを総括した最新レビュー(2025年) 前臨床の成功とのギャップを製品の標準化・個別化・工学的革新による克服可能性を示唆
「From bench to bedside: translating mesenchymal stem cell therapies through preclinical and clinical evidence」

筆者:Jai Chand Patelほか

研究機関:ネブラスカ大学医療センター(米国)

雑誌名:Frontiers in Bioengineering and Biotechnology(10.3389/fbioe.2025.1639439)

レビュー論文数:237件

【要旨/結論】

MSCは生着に依存する従来の細胞治療と異なり、主にパラクライン・シグナリング(VEGF・TGF-βやエクソソームなどの生理活性分子の分泌)を介して機能する。近年、損傷細胞へミトコンドリアを供与してエネルギー機能を回復させる「ミトコンドリア移行」という新機序も同定され、ARDSや心筋虚血まで治療対象が広がった。本稿では、パラクライン・免疫調節・ミトコンドリア移行という3機序を軸に、1,200超の臨床試験の到達点と限界を整理し、CRISPR・AI・3Dバイオプリンティング等の解決策まで網羅する。

【結論】

① MSCの作用機序は「パラクライン・免疫調節・ミトコンドリア移行」の3軸

初期研究は分化能を重視したが、現在はパラクライン活性(Secretome)が治療効果の中心と認識されている。MSCはEV・サイトカイン・増殖因子を分泌し、血管新生・抗アポトーシス・抗線維化を促す。また、サイトカイン(PGE2・IDO・PD-L1)でT細胞増殖を抑え、Th1/Th17→Th2/Treg平衡を寛容方向へ傾け、自然免疫・獲得免疫の両方を調整する。さらに、MSCはトンネルナノチューブ(TNT)を通じて健常なミトコンドリアを損傷細胞へ供与し、ATP産生を回復させ、酸化ストレスを軽減する。

② 多疾患・多動物種で示された有効性の多くが臨床的成功に結び付かない

心血管(梗塞30〜40%減)や神経(脳梗塞体積50%減)、自己免疫(EAE/CIA)、肺(ブレオマイシン肺線維症・LPS-ARDS)・整形(軟骨/骨)で有効性が実証されたが、疾患病態のモデルと実情が乖離しているケースや、若く均一な動物と高齢で多様なヒトが同一ではない点、マウスでは免疫特権でもヒトでは排除されうる点などが障壁となっている。さらにソース・ドナー・培養・投与法のばらつき、長期追跡の欠如(腫瘍化の見逃し)も臨床への橋渡しを妨げている。

③ 臨床第I/II相の課題

全世界で1,200超のMSC試験が登録され、種投与経路で短期的な安全性が一貫して示された。ただし、ポテンシーのばらつき・最適用量未確定・静注MSCの肺捕捉・バイオマーカー層別化の欠如が課題となっている。

④ 臨床第III相の課題

急性GvHDのREMODEL第III相は60%が完全奏効で、Temcellが2015年に日本で世界初のアロMSC製品として承認された一方、慢性GvHDのSTAR試験、心不全のCHART-1、心筋梗塞のTRIDENT、ALSのNeuroNEXTは主要評価項目が未達であった。製品の標準化(ロット間ばらつき)、盲検不足によるプラセボ効果、規制の分断(EMAは長期安全性、FDAは機序バイオマーカー/ポテンシー試験、日本PMDAは第II相で早期承認)なども課題である。

⑤ 製造・スケーラビリティの課題

ドナー特性や組織源、培養条件で機能が変動するため、臨床効果を予測できない。2D培養では細胞数が少なく、3Dバイオリアクターは100倍の細胞数を回収できるが酸素管理などが課題となっている。また、GMP対応のゼノフリー培地は高価であり、培地コストも商業化の課題となっている。

⑥ 適用新技術

低酸素/サイトカイン前処理、3Dスフェロイド、バイオマテリアル足場、cell-freeなエクソソーム工学、AIによる製造最適化・ポテンシー予測・患者層別化などによって課題解決が進められている。

◎MSC治療の「前臨床の有望さと臨床現実のギャップ」は、標準化(普遍的ポテンシー試験)、個別化(バイオマーカー層別化・オミクス)、技術革新を統合することで解決できると考えられる。

【意義/新規性】

MSC治療を「作用機序→前臨床→臨床(第I/II/III相)→安全性・免疫原性→製造・規制→新技術→将来」という橋渡し(translation)の全工程に沿って縦断的に整理した。特に、前臨床の成功が第III相で再現されない理由について具体的な試験名(REMODEL, STAR, CHART-1, TRIDENT, NeuroNEXT, Cx601/ADMIRE-CD)を挙げ、承認に至った例(Temcell, Alofisel)と失敗例を対比し、その課題解決を論じた。

237件の論文を整理し臨床試験の成否のポイントを総括した最新レビュー(2025年)
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間葉系幹細胞(MSC)の
定義・呼称に
関する国際機関の公式見解

以上のとおり、MSCは、1990年代の発見当初は「目的組織の細胞に置き換わる多分化能を備えた幹細胞」と位置付けられ、再生医療への応用に注目が集まりました。
先に解説したとおり、本来“幹細胞(Stem Cell)”とは、生体内で「自己複製能」と「多分化能」を持続的に発揮できる細胞と厳格に定義されています。
ところが、2000年代半ば頃になると、臨床で広く使われるMSCについては、次第に下記の事実が判明しました。

<移植後のMSCの生体内での挙動>

  • 生体内で長期生着しない(数日~数週間)
  • 分化による組織置換はほぼ起きない
  • 主作用は、成長因子・サイトカイン・エクソソーム等の分泌と免疫調整による炎症抑制

この結果、「幹細胞として組織を作り替える存在ではない」という認識が主流になり、2017年には「Mesenchymal Stem Cell」の命名者であるArnold Caplan本人が、「MSCはもはや“Mesenchymal Stem Cell”ではなく、“Medicinal Signaling Cell”(治療用情報伝達細胞)と呼ぶべき」と声明を出しています。これは、MSCは「分化して臓器を再生する細胞」ではなく「分泌因子により生体環境を整備するシグナル伝達細胞」であるという趣旨です。

間葉系幹細胞(MSC)の定義・呼称に関する国際機関の公式見解

また、2000年代半ば以降、混乱を防ぐ目的で、権威性の高い国際機関が次々に公式声明を出してきました。これらの一連の流れは、「科学的な厳密性の回復」と「不適切な医療広告による誤解・過剰期待の是正」が本質です。

(1) ISCT(International Society for Cell & Gene Therapy) 国際細胞治療学会の公式声明

■ 2005年の公式声明

MSCを真のStem Cell(幹細胞)とStromal Cell(間質細胞)で区別すべき
Minimal criteria for defining multipotent mesenchymal stromal cells. The International Society for Cellular Therapy position statement

「MSCという呼称を整理しよう」という最初の国際標準。
一般に“Mesenchymal Stem Cell”(間葉系幹細胞)と呼ばれている細胞群は真の幹細胞としての要件を満たしていない可能性が高く、名称が科学的に不正確で一般大衆に誤解を与えかねないという問題を明確に指摘しました。その上で、“Multipotent Mesenchymal Stromal Cells”(多能性間葉系間質細胞)という名称を推奨しています。

■ 2019年の公式声明

“MSCはStem Cellではない”という再定義
生体内で自己複製能と分化能を厳密に示せない限り“Mesenchymal Stem Cell”(間葉系幹細胞)の用語を使うべきでない
Mesenchymal stem versus stromal cells: International Society for Cell & Gene Therapy (ISCT®) Mesenchymal Stromal Cell committee position statement on nomenclature

2005年の声明後も、頭字語「MSC」が多義的に使われ混乱が拡大している現状に対し、ISCTの MSC委員会の立場をさらに明確にするためにアップデートした、現時点で最重要な国際的コンセンサス文書。
内容はかなり踏み込んでおり、「“MSC”という略語自体は維持するが、“Mesenchymal Stromal Cell“(間葉系間質細胞)と呼ぶべき」と通達しています。
また、多くのMSC製剤は真の“幹細胞性”を証明しておらず、生体内での自己複製・分化証拠が限定的で、実際の作用は 栄養支持作用、免疫調整及びシグナル伝達作用と整理しています。

(2) その他の主な国際機関・政府の動向

■ ISSCR(International Society for Stem Cell Research) 国際幹細胞学会の見解

2021年の治療ガイドラインにおいて、「“mesenchymal stromal cells”と表記した上で、“stem cell”を謳う製剤や治療の危険性を警告しています。

■ 米国FDA(食品医薬品局)のスタンス

FDAは明確に “Stem Cell“ではなく“Stromal Cell”という用語を使用しています。
例:SR-aGVHDを適応とする米国で初承認されたMSC製剤
FDA Approves First Mesenchymal Stromal Cell Therapy to Treat Steroid-refractory Acute Graft-versus-host Disease

■ 日本再生医療学会の通達

これらの一連の国際標準に倣い、2025年5月30日付で、公式文書における表記を“Mesenchymal Stromal Cells”(間葉系間質細胞)に統一する方針を公表しました。
FDA Approves First Mesenchymal Stromal Cell Therapy to Treat Steroid-refractory Acute Graft-versus-host Disease

「日本再生医療学会では、再生医療等安全性確保法下の治療で多用されている「間葉系幹細胞」という表現が、幹細胞としての多分化能や自己複製能があるとの誤解を与える恐れがあることから、今後の公式文書においては、ISCT、ISSCR、FDAなどの国際的機関と整合性のある用語である「Mesenchymal Stromal Cells」の日本語訳として「間葉系間質細胞」に統一することといたしました。」

間葉系幹細胞
(間葉系間質細胞)を
用いた再生医療の意義

ここまで解説してきたとおり、MSCを使用した再生医療の主要な作用機序として、以下の2点が広く認識されています。

01

生きたMSCが分泌する多様な成長因子、サイトカイン、エクソソームなどのパラクライン効果による炎症抑制や血管新生、免疫調節

02

アポトーシスを迎えたMSCの残骸を貪食した免疫系細胞(マクロファージ、単球)の再教育から始まる全身の免疫応答を通じた免疫制御

つまり、MSCの全身投与による治療効果は、生存MSCの分泌因子による短期集中的なパラクライン効果と、アポトーシスMSCによる中長期的な免疫コントロールの“二段構え”となっています。このような複雑な作用機序を示す治療は他に見当たりません。
この稀有なメカニズムを活用して、最重要ターゲットである免疫疾患をはじめ、糖尿病や肝炎、動脈硬化などの代謝異常、骨髄ストローマ細胞時代から馴染みが深い整形外科領域、心臓や脳などの血管障害、さらにパーキンソン病などの神経障害まで幅広い領域の臨床で高い治療効果と安全性が報告されてきました。
現在、自由診療によるMSC治療が認められていない米国や大半の欧州諸国では、同種)ドナー(他人)由来のMSC製剤の開発が活発で、多くの後期臨床試験が進行しておりFDAの承認を待っています。

米国で承認待ちの主な後期臨床試験登録MSC製剤(2026年6月現在)

分類 製剤名
(開発名)
開発企業 適応疾患 現状と見通し
同種MSC remestemcel-L
(Ryoncil)
Mesoblast 小児ステロイド抵抗性
aGVHD
  • 成功。
  • 米国初のMSC製剤として承認済。
同種MSC Revascor
(rexlemestrocel-L)
Mesoblast 虚血性心不全(HFrEF/LVAD)
  • 第3相完了
  • 承認申請要件で合意(2025年)、承認待ち。
ES系 Zimislecel
(VX-880)
Vertex 1型糖尿病
(重症低血糖)
  • 第3相進行中
  • 2026年申請予定
ES系 bemdaneprocel
(BRT-DA01)
BlueRock/Bayer パーキンソン病
  • 第3相「exPDite-2」進行中
    【Phase 3 exPDite-2】2025年9月
    102人に初投与

いっぽう、日本においては2014年に制定された再生医療等安全確保法にもとづき、多数のクリニックが自費診療でMSCを用いた再生医療を提供していますが、取り扱う細胞の本質や真の作用機序についての正しい知識を患者様に伝えているクリニックはほぼ皆無です。まさに権威ある国際機関が警告している「幹細胞を謳う誤った過剰広告」が横行しているのです。

繰り返しになりますが、MSCの本質は「分化して目的組織の細胞に置き換わる多分化能を有する幹細胞」ではなく、「数百種類の成長因子やサイトカイン、エクソソームを分泌して免疫調整などの環境整備を担う間質細胞」なのです。
しかし落胆する必要は全くありません。
数百種類もの成長因子やサイトカイン、エクソソームを分泌して炎症を抑制し、全身の免疫ネットワークの性質を組織修復の寛容型に変貌させることができる治療は他にありません。
つまり、“効果の違い”ではなく、“性質や作用機序の相違”なのです。
従って、患者様においては、この素晴らしい間葉系間質細胞の真価や作用機序を正確に理解した上で治療を受けて頂く必要があります。
そして、治療を提供するクリニック側に求められるのは、「真実を伝える勇気」だと考えます。
当院は、正しい知識にもとづく安全な治療をモットーにしています。

当院のMSC治療についてはこちら
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ISCT(国際細胞治療学会)の
公式声明の抜粋

2005年の公式声明
Minimal criteria for defining multipotent mesenchymal stromal cells. The International Society for Cellular Therapy position statement
原文:
The recognized biologic properties of the unfractionated population of cells do not seem to meet generally accepted criteria for stem cell activity, rendering the name scientifically inaccurate and potentially misleading to the lay public
和訳:
間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cells; MSC)として広く知られる細胞の非分画集団について認められている生物学的特性は、幹細胞活性に関する一般に受け入れられた基準を満たすようには見えず、この名称が科学的に不正確なものとなり、一般大衆に誤解を与えかねないものにしている。
原文:
The broader aim of this position statement is to foster the use of scientifically accurate, standardized terminology to facilitate exchange of knowledge among biomedical investigators and dissemination of knowledge, without fueling unrealistic expectations, to the general public.
和訳:
本ポジションステートメントのより広い目的は、科学的に正確で標準化された用語の使用を促進し、生物医学研究者間の知識交換と知識の普及を促すと同時に、一般大衆に非現実的な期待を煽ることのないようにすることである。
2019年の公式声明
Mesenchymal stem versus stromal cells: International Society for Cell & Gene Therapy (ISCT®) Mesenchymal Stromal Cell committee position statement on nomenclature
原文:
The International Society for Cell & Gene Therapy (ISCT®) Mesenchymal Stromal Cell (ISCT MSC) committee issued a position paper in 2005 clarifying that the term mesenchymal stem cell is not equivalent or interchangeable with mesenchymal stromal cell (MSC).
和訳:
国際細胞・遺伝子治療学会(ISCT®)間葉系間質細胞委員会(ISCT MSC委員会)は2005年にポジションペーパーを発表し、間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell)という語が、間葉系間質細胞(Mesenchymal Stromal Cell; MSC)と同義でも互換でもないことを明確にした。
原文:
However, the interchangeable use of MSCs as mesenchymal stem cells or mesenchymal stromal cells has propagated, not diminished; there are in fact 54 858 results for a search string of “mesenchymal stem cells” versus 58 111 results for search string of “mesenchymal stromal cells” queried on Pubmed (February 2019).
和訳:
しかし、MSCを間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cells)または間葉系間質細胞(Mesenchymal Stromal Cells)として互換的に使う用法は、減るどころか、むしろ広がってしまった。実際、PubMedでの検索結果は「Mesenchymal Stem Cells」が54,858件に対し「Mesenchymal Stromal Cells」が58,111件(2019年2月時点)と拮抗している。
原文:
Additionally, many direct-to-consumer clinics have marketed mesenchymal stem cells to patients, sometimes even resulting in adverse reactions affecting patient safety.
和訳:
多くの消費者直販(direct-to-consumer)クリニックが、間葉系幹細胞を患者に売り込んでおり、ときには患者の安全に影響する有害反応を生じることさえあった。
原文:
Unless there is rigorous functional evidence in vitro and in vivo to demonstrate the self-renewal and differentiation properties, the term mesenchymal stem cells should not be used.
和訳:
In vitro・in vivo双方で自己複製能と分化能を厳密に示せない限り「Mesenchymal Stem Cell」の語を使うべきでない。
原文:
The solution to this nomenclature quandary lies in more rigorous scientific examination, discussion, discourse and exchange of ideas and not exclusion of valuable research on MSC properties, function and definitions from esteemed scientific conferences and funding bodies.
和訳:
この命名をめぐる難題の解決は、より厳密な科学的検証・議論・対話・意見交換にあるのであって、MSCの特性・機能・定義に関する価値ある研究を、権威ある学術会議や資金提供機関から排除することにあるのではない。
原文:
The aim of this position paper is to further consolidate and clarify ISCT’s MSC committee position on functional definitions of mesenchymal stem versus stromal cells.
和訳:
本ポジションペーパーの目的は、間葉系の『幹細胞(Stem)』対『間質細胞(Stromal)』の機能的定義に関するISCTのMSC委員会の立場を、さらに統合し明確化することである。
原文:
Unless there is rigorous functional evidence in vitro and in vivo to demonstrate the self-renewal and differentiation properties, the term mesenchymal stem cells should not be used.
和訳:
In vitro・in vivo双方で自己複製能と分化能を厳密に示せない限り「Mesenchymal Stem Cell」の語を使うべきでない。
原文:
it is the paracrine and immunomodulatory properties of MSCs that largely serve as the basis for their clinical utility as exemplified in the Food and Drug Administration–authored review of 66 investigational new drug (IND) applications of MSC-based products submitted to the agency prior to 2013.
和訳:
MSCの臨床的有用性の基盤として主に役立っているのは、そのパラクライン作用と免疫調節作用である。このことは、2013年より前に当局(FDA)へ提出されたMSCベース製品の治験薬申請(IND)66件を、FDA自身がまとめたレビューにも例示されている。
原文:
The ISCT MSC committee recommends that functional distinction around definitions of stromal and stem cells be maintained.
和訳:
ISCT MSC委員会は、間質細胞(Stromal Cells)と幹細胞(Stem Cells)の定義をめぐる機能的な区別が維持されることを推奨する。